作成日:2024年11月05日
神戸「湊山温泉」が話題沸騰! "超アヒル風呂"や2階全面を使った広大な休憩スペース"喫泉"などで魅了 兵庫
神戸の山手側に位置する「湊山(みなとやま)温泉」は、明治時代に開業したという深い歴史をたたえた湯どころです。そんな長寿の温泉が今、話題となっています。理由は湯船いっぱいに浮かぶアヒルちゃん。さらに、ゆったりくつろげてコワーキングも可能な休憩スペースも人気に。斬新な企画や設備で人々をアッと驚かせる湊山温泉の魅力をリポートします。
緑豊かな場所に、あひるが出迎えてくれる温泉があった
ファッション、スイーツ、ライトアップ、きらびやかで都会的センスに溢れているイメージが強い神戸。ところがJR「神戸」駅から神戸市バス7・110系統に15分ほど乗っていると「こ、ここも本当に神戸なの?」ときょろきょろしてしまう、のどかな風景が現れます。今回目指した「湊山(みなとやま)温泉」は、そんな緑豊かな景観の中にあるのです。
湊山温泉が位置する場所は、店名にもなっている湊山のふもと。最寄りのバス停は「平野」。繁華街「三宮(さんのみや)」のバスターミナルからでも神戸市バス7系統に乗り、約20分で到着します。自動車の場合、専用駐車場がなんと28台分もあるというから、ひと安心です。
商店街にある平野バス停で降り、ほんの少し北へ歩くと、「神戸の奥座敷」とも呼ばれる風光明媚な景色が広がります。ここに、話題の湊山温泉がありました。
「“案外近い秘湯”と呼ばれています。ほどよく都会、ほどよく田舎。それが当湯の立地の魅力だと思うんです」
そう語るのは湊山温泉の広報・和氣輔(わき たすく)さん。お? 手にしているオブジェはなんですか?
和氣「これは店長の阿部大が自分で彫った“かなえるあひる”というキャラクターです。湊山温泉の守り神のような存在で、『ありがとう』と伝えながら頭をなでると、よいことが起きる……かもしれません」
湊山温泉・広報の和氣舗さん。手にするのは湊山温泉のご神体(?)「かなえるあひる」
湊山温泉のシンボル、かなえるあひる。実は湊山温泉を訪れる道中にも彼らがたくさんいて、道しるべの役割を果たしています。
湊山へ向かう道中にも、かなえるあひるがいる。探してみてね
湊山温泉店長の阿部さんは美大を卒業しており、彫刻をはじめ、ものづくりが得意なのだとか。館内のさまざまな箇所を阿部さんが設計したり手作りしたりしているのだそうです。
阿部大さんは美大卒で、自らかなえるあひるを彫った
かなえるあひるガチャも登場
ラバーダックで覆い尽くされる「超アヒル風呂」
あひると言えば、2022年にスタートした「超アヒル風呂」が湊山温泉の目玉企画です。毎月第1土・日曜日に開催される超アヒル風呂は、およそ2,000羽ものラバーダックを湯船いっぱいに浮かべる大胆なプロジェクト。アヒルたちをかき分けて温泉に肩までつかれば、日々の悩みが一瞬でどうでもよくなり、とてもハッピーな気持ちになるのです。
それにしても、いったいなぜ、このような豪快なプランが生まれたのでしょう。
和氣「2015年から湊山温泉を運営しているニコニコ温泉の社長・真神友太郎の考えで始めました。『ちっちゃい子たちに、お風呂は楽しい場所なんだよって知ってほしい』と、かわいいアヒルを浮かべることにしたんです」
湯船を覆い尽くすラバーダック。ふと目が合うこともある
浮かんでいるラバーダックにはさまざまな階級がある。手に取って確かめてみよう
確かに、これは楽しい。ラバーダックを湯船に浮かべる銭湯やスパは他にあるかもしれません。しかし、まるでロックフェスのオーディエンスのごとく、こんなにアヒルが大集合しているお風呂は日本でおそらくここだけでしょう。
和氣「実は、最初は1,000羽だったんです。でも実際に浮かべてみると、意外とインパクトがない。『あれ、足りなくね?』って。それで倍の2,000羽に増量しました」
ラバーダックのおかわり、どんどん投入しますよ
ものすごい量なので、ときどき洗面器から溢れ出る
このラバーダックの追加大盛りは大成功。超アヒル風呂の開催日はファミリー層が増え、平日に較べ300人近く入場者が拡大するのだそうです。犬や猫を浮かべる「わんにゃん風呂」も不定期に開催。「浮かべもののバリエーションはどんどん増えている」といいます。まさにウキウキしますね。
「わんにゃん風呂」だが、ウサギなど他の小動物も仲間に加わる
平清盛も湯治した由緒ある温泉
このように斬新なアイデアで注目される湊山温泉ですが、歴史は古く、創業はなんと明治24年(1891)。いにしえの書物によると平安時代にはすでにこの場所に温泉がこんこんと湧いており、この地をおさめた武将・平清盛も湯治したといういわれもあるのです。
わかっているだけでも800年もの伝統があり、悠久の時を超えて歴史上の人物と同じお湯につかれるなんて、なんだかエモーショナルな気持ちになりますね。
大正時代に撮影したとされる湊山温泉の写真が残っていました。現在の様子と較べても、天王谷川沿いに建つ立地といい、風情といい、ほとんど変わっていません。そんな歴史ロマンにひたれる湯どころなのです。
大正時代の湊山温泉
現在の湊山温泉。風情はそのままだ
建物や設備も経年がもたらした深い味わいがあります。ご覧ください、この下足箱を。アンティークと呼んで大げさではない渋さ、気品があります。
和氣「古い下足箱なので、あちこち傷んでいます。けれども、失ってしまうと2度と手に入らない貴重なものなので、店長の阿部をはじめスタッフで修理しながら大切に使っているんです」
映画のセットかと思うほど見事なヴィンテージ感をかもしだす下足箱
この下足箱、単に古いだけではなく、利便性も高いのです。なんと、傘が1本、丸ごとスポッとおさまります。これは便利。帰りに傘を忘れる心配も少なくなり、最新の設備にも採り入れてよい実用性があるなと感心しました。
長い傘がすっぽり収まる
入浴料金は中学生以上が750円(午前5:00~8:00は550円)、小学生230円(土日は100円)、乳幼児 (0~6歳)無料です。超アヒル風呂などイベント風呂の入浴は、小学生はさらにプラス20円が必要となります。フェイスタオル50円、バスタオル150円の貸しタオルもありますよ。支払いは現金、クレジットカード、交通系IC、PayPayが利用可能です。
*2024年11月現在の料金。いずれも税込価格です。
一反木綿は貸出不可
午前5:00~8:00の朝風呂は、料金がぐっと安くなって、かなりおトク。そもそも関西は朝風呂を実行している銭湯・温泉が少ないので、早朝から入浴できるこの施設は貴重な存在です。出勤や登校前に“朝活”として入浴したり、夜行バスで神戸へやってきた観光客が、お風呂に入ってさっぱりしてから遊びに出かけたりする、そんな例もあるそうです。
源泉かけ流しで5種類の温度を楽しめる
浴室に入ってみましょう。うわ~、広い! テンションが上がります。そして浴槽や壁が温泉成分で赤褐色になっており、いかにも身体によさそうです。「そりゃ清盛はんも湯治するわな」と感心しました。
お湯は堀削自噴源泉のかけ流し。湧出温度が約27℃と低いため、薪炊きで加熱しています。浴室には5種類の浴槽があり、女湯・男湯、同じ構造です。浴槽によってお湯の温かさが異なり、すべて薪の量などで温度調整しているというから匠のワザですね。
26~29℃ 源泉水風呂
36~38℃ ぬるま湯
38~41℃ ジャグジー
41~43℃ 主浴槽
45~46℃ 高温浴槽
源泉水の樽風呂につかると黒ひげ危機一髪気分に
円型がかわいい高温浴槽
お湯が濁っているように感じますが、これは天然の炭酸ガスが細かく泡立っているため、そう見えるのです。炭酸泉は血行をうながし、疲労回復・肩こりの改善などに効果があると言われています。
感動を覚えるのは、お湯も設備も、とにかく清潔なこと。
和氣「一年を通じ、毎晩営業終了後にすべての浴槽の源泉を完全に抜いて清掃します。そして営業前に新たに温泉を沸かすのです。お湯は毎日入れ替えていますので、とてもきれいですよ」
毎日、温泉を入れ替えるとは、とてつもない湧出量です。これぞ天然温泉の醍醐味。
和氣「加水はしていません。源泉100%です。蛇口からも源泉が出ます。ただ、それだけに掃除がたいへんなんです。温泉成分であるカルシウムなどがこびりついて、掃除は磨くというより“削る”感覚なんですよ」
シャンプー・リンス・ボディソープは備え付け
超アヒル風呂後の清掃はアヒルの救出(?)からスタート
裏方スタッフ8名がかりで掃除するといいますから、本当にご苦労様です。でもそれだけ、温泉成分がたっぷりということですよね。
和氣「温泉の効果なのか、常連さんのお肌がツヤツヤしているんです。それに杖をついてやってきたご高齢の方が、背筋をしゃんと伸ばして帰るときがあるんですよ。そういう姿を見ると、『やっぱり温泉のパワーってすごいな』と思うんです」
浴室のもう一つのお楽しみは、鏡広告。名付けて「銭湯ゆ鏡広告街」。「私と温泉どっちが大事やねん!」「あとは家帰って屁ぇこいて寝るだけ。」など、思わずプッと吹き出してしまうユーモラスな広告に心地よく脱力させられます。1枠につき月に23,000円(税込)であなたも広告を打てるので、「我こそは」という方はぜひ。
「あとは家帰って屁ぇこいて寝るだけ。」そんな1日は最高だ
一度でいいから見てみたい。妻がジャーマンスープレックスかけるところ
山麓の湯治場のような静穏な雰囲気を残しながらも、超アヒル風呂やおもしろ広告などエンタメ要素もある湊山温泉の浴場。バラエティに富んでいて、それだけに利用客の層も幅広いといいます。
和氣「ファミリー層はもちろん、単身でお見えになるお勤めの方、部活帰りに友達どうしでやってくる学生さん、カップル、さまざまです。100歳を超えたご高齢の方がしっかり歩いてお越しになる場合もあります。そういうお客様に接すると、『我々も負けてはいられない』という気持ちになります。私たちのほうが元気をもらえますね」
お子さんから100歳を超えたお年寄りまで幅広い世代に支持されているという
脱衣場も広々。マッサージチェアが2台。鏡も大きい
広々とした休憩スペースには膨大な数の蔵書が
続いて、2階へあがってみましょう。2階には2019年にオープンした休憩スペース「喫泉-kissen-」があります。
ウッディな造りの喫泉は、ソファやハンモック、さらにはテントまであり、思い思いのスタイルでくつろげます。冬季はこたつが3台も並ぶというから、もう、ぬっくぬくです。
冬はこたつもあり、湯冷めの心配は少ない
ハンモックにテント。インドアでアウトドア気分
和氣「ここはもともと倉庫だったんです。せっかくのどかな場所にある温泉なので、お客様にのんびりと過ごしていただきたいという思いを込めて休憩スペースを開設しました。店長の阿部が自分で図面をひいて設計したんですよ」
お客さんを見守るのは、もちもち恐竜“すばるくん”をはじめとする、ぬいぐるみスタッフたち。ぬいぐるみそれぞれにキャラクターづけがなされており、和氣さんたちとは「仕事仲間」という関係性なのだそうです。
喫泉のマスコット、もちもち恐竜のすばるくん
ぬいぐるみのおかげなのか、ほんわか、アットホームな印象があるスペースです。安心して、だら~んとできるというか。
和氣「お客様からは『実家に帰ってきたみたいで、くつろげる』と喜んでいただいています。初対面のお客さんどうしが自然と仲よくなっていたり、並んで眠っていたり。ほのぼのとした雰囲気に包まれていますね」
本棚には漫画が約5,000冊。ほか、絵本・小説なども合わせ、書籍およそ7,700冊がズラリと並びます。しかも公式サイトには、コミックスの蔵書のアーカイブを掲載しているではありませんか! 事前にどんな本があるかがインターネットでわかるのだなんて、ここまで凝っていてマニアックな温泉施設、極めてレアではないでしょうか。
和氣「もともとイラストを描いたりアニメの制作をしたりしていたスタッフがいましてね。本のセレクトは一任しています。それに運営をしているニコニコ温泉自体、社長の真神がアニメや漫画がすごく好きで、毎年コミケに参加する社風なんです。そういう点でオタク寄りの傾向になっているのかもしれません」
なんと哲学書まである。風呂あがりに読むフロイトはたまらないだろう
喫泉へ向かう階段にはバイク好きな店長が選んだ「湊山温泉バイカーズ文庫」コーナーも設置
さらに嬉しいのは、フリーWi-Fi(無線LAN)があるコワーキングスペースも併設されているところ。平日はここでリモートワークしている社会人も多いのだとか。他都市からのワーケーションにもぴったりですね。
コーキングスペースあり。仕事に疲れたらお風呂へ直行
本棚の裏側には、カプセルスタイルの謎めいた「本棚秘密基地」が隠されています。自分だけのパーソナルリラックススペースです。足を伸ばして、ゆったりくつろげますね。室内には机とライトがあり、読書にも集中できます。幼い頃、押し入れの中で遊んだ記憶が蘇ってきました。
本棚の裏にカプセルタイプの部屋がある「本棚秘密基地」
喫泉の利用料金は中学生以上600円、小学生100円、乳幼児 無料。利用時間は営業時間内フリータイム。別途入浴料金が必要となります。
*2024年11月現在の料金。いずれも税込価格です。
キッチンカーまでやってくる地域交流の場
1階にも休憩所があります。こちらは畳敷き。
お風呂あがりは、神戸の銭湯や駄菓子屋さん・お好み焼き屋さんの定番レトロドリンク、地元産の「アップル」「アップルサイダー」「シャンペン」でクールダウンしてみては。
神戸のご当地ドリンク「アップル」「アップルサイダー」「シャンペン」
60通りもの組み合わせが可能なクリームソーダは「塩かけ放題」。スタッフが「塩をかけるとおいしい」と発見したのだそうだ
そして、湊山温泉にはもう一つ、お楽しみがあります。それはパンのキッチンカーや包丁研ぎの実演などが建物の前で開かれること。お風呂でリラックスした帰りに、関西人がよく言う「明日のパン」を買って帰れるなんて最高じゃないですか。決行日はXやInstagramなどSNSに掲載されたカレンダーでご確認ください。
「パンの日」を選んでやってくる利用客も多いという
SNSに掲載されたカレンダーを見てみると、ほぼ毎日、楽しい催し物がわんさか。湊山温泉は地元マルシェの役割も果たし、温泉施設を超えた交流拠点になっているのですね。
和氣「単なる温泉事業ではなく、大切なのは地域貢献だと思っています。身体をきれいにするだけにとどまらず、ご縁を紡げる場所にしたいんです」
アヒルにはしゃぐ子どもたちを大人たちが見守り、地域の輪が広がってゆく
明治時代に創業した、永い歴史を誇る湊山温泉ですが、実は過去に閉業の危機がありました。温泉・銭湯の再生事業をしているニコニコ温泉が運営を交代し、2015年に蘇生した経緯があります。そして、あえて建物の古き良き部分には手を加えず、イベント企画やサブカル的観点での発信で新たな層にアピールしたのです。
超アヒル風呂など映える企画でにぎわう湊山温泉には、すみずみまで温故知新の思いが溢れていました。到着した時は「ここも神戸?」と思いましたが、取材を終えてみると、古い街も新しい街もともに大切にする神戸らしい場所だと改めて感じます。ハーバーランド、ポートタワー、ルミナリエなどとともに、神戸の「案外近い秘湯」もぜひ観光のコースに加えてみてください。
あなたもぜひ「パワーチャージしていかないか??」
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