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昔ながらの風情が残る「東京型銭湯」の魅力とは? 3軒の老舗銭湯を巡るツアーを体験レポ 全国

年々、数を減らしている“昔ながらの銭湯”。東京都では、伝統的な宮造りの外観や格子状の天井に浴室内のペンキ絵などの特徴をもつ銭湯を「東京型銭湯」と位置づけ、文化的な価値を発信するプロジェクトを行っています。10月10日の「銭湯の日」には、「明神湯」「東京浴場」「大盛湯」と、都内の代表的な「東京型銭湯」3ヶ所を巡るという、贅沢なツアーが開催されました。
江戸時代から続く東京の銭湯文化。戦争や震災などの危機を乗り越え、最盛期には都内に約2700もの銭湯が軒を連ねていたといいます。しかし昨今、利用者の減少や後継者問題で、その数は約400軒にまで減ってしまっているとか。また、建物の老朽化や経営難のため、ビルやマンションに建て替えてしまうケースも多く、いわゆる“昔ながらの銭湯”は、どんどん希少になっているとのこと。
 
そこで、銭湯文化を守り、その価値を発信するために、東京都が推進しているプロジェクトが「東京型銭湯」です。日本の伝統的な宮造りの外観に、天井が高く開放感のある浴室など、昔ながらの特徴を持つ銭湯を「東京型銭湯」と位置づけ、デジタルコンテンツを展開したり、オフラインイベントを開催したりしています。
 
そして、10月10日の「銭湯の日」には、都内の代表的な「東京型銭湯」を3ヶ所巡るツアー「東京型銭湯 現地体験イベント」が開催されました。特別に帯同取材をさせていただいたので、その様子を詳細レポートします!

1. 明神湯:朝ドラのロケ地にも使われた“昔ながらの銭湯”

 明神湯
爽やかな秋晴れだったこの日、初めての試みとなる「東京型銭湯 現地体験イベント」には、20人近くの参加者が集まりました。
 
最初に訪れたのは、大田区・南雪谷の「明神湯」。宮造りの建物は、1957年(昭和32年)の創業当時のままで、東京都選定の「歴史的建造物」にも選ばれています。ドラマや広告の撮影にも、よく使われていて、朝ドラ『おかえりモネ』のロケ地としても有名です。

 
二羽の鶴の意匠が施された「懸魚」

外観は、寺社仏閣を思わせる荘厳な雰囲気。「唐破風」と呼ばれる丸みを帯びた屋根は、「東京型銭湯」の特徴の1つでもあります。「懸魚」という飾り彫刻も施されていて、意匠は空を飛んでいるような二羽の鶴。とても縁起のいいモチーフです。
 
今回のイベントでガイドを務めてくださった、一般社団法人せんとうまち代表理事の栗生はるかさんは、銭湯の宮造り建築についてこう語ります。

栗生はるかさん
 一般社団法人せんとうまち代表理事・栗生はるかさん

栗生 銭湯の建築に宮造りが採用されたのは、関東大震災からの復興にあたり、市井の人たちを元気づけようという意図があったからだといわれています。「唐破風」は、歌舞伎座を模したのではないかという説もあるんです。また、江戸時代の銭湯で、湯気を逃さないための「柘榴口」が「唐破風」の意匠だった名残だという人もいます。そもそも、入浴で“体を清める”という意味で、寺社仏閣をイメージした建物になっているのかもしれません。

 明神湯の番台
今では珍しくなった番台。「男湯」と「女湯」の文字はご主人の直筆だとか

そんな「唐破風」をくぐり玄関に入るとすぐ、男湯と女湯に入口が分かれています。中央には昔ながらの番台も健在です。脱衣所は広々としていて、見上げると格子状の天井に、男湯には庭園に臨む縁側もあり、「東京型銭湯」ならではの特徴が伺えます。

 明神湯の天井
格子状の天井も「東京型銭湯」の特徴の1つ

明神湯の庭園
男湯の縁側には小さな庭園が

明神湯のドライヤーチェア
女湯にはレトロなドライヤーチェアが並ぶ憩いのスペースも

そして、開放的で明るい浴室内には、まさに銭湯らしい富士山のペンキ絵も。現在、ペンキ絵師は全国に3人しかいないのですが、そのなかの第一人者である丸山清人さんが手掛けているそう。

明神湯のペンキ絵
 富士山のペンキ絵はまさに“昔ながらの銭湯”

明神湯のモザイク絵
富士山のペンキ絵とは打って変わって、ヨーロッパ風のタイル絵も

いまだに、薪でお湯を沸かしているのも、昔ながらのこだわり。ご主人の大島さんのご厚意で、薪窯も見学させていただきました。

明神湯の薪窯
炎が燃え盛る窯の周りはとても暑い

明神湯の煙突
奥に見える煙突も現役で稼働中

狭い部屋は天井も低く、奥へ進むだけでも一苦労です。窯の中ではごうごうと炎が燃え盛り、この熱気では夏場は地獄だろうなと、気が遠くなるような思いが。伝統を守り続けるためには、並大抵ではない覚悟がいるんだなと身に沁みました。

2. 東京浴場:かわいらしい意匠と、錦鯉が泳ぐ池も印象的


続いて、2軒目の品川区・大井「東京浴場」には、バスで移動します。伝統的な宮造りの外観ですが、「唐破風」に取り付けられた「懸魚」が柔らかいピンク色だからか、親しみやすい雰囲気を感じました。

東京浴場の唐破風
曲線が美しい「唐破風」

 東京浴場の懸魚
「唐破風」に取り付けられたピンク色の「懸魚」

また、その上にある大破風もピンク色で、
鶴の「鏝絵」が描かれています。「鏝絵」とは、漆喰で描かれる装飾で、厄除けや験担ぎの意味もあるのだとか。建物は1953年(昭和28年)に建て替えられていて、「明神湯」同様、東京都の「歴史的建造物」に選ばれています。

東京浴場の鏝絵
 大破風に描かれた鶴の「鏝絵」

中に入ると目に飛び込んできたのは、色とりどりのステンドグラスに囲まれたフロント。ほかに類を見ない、レトロモダンでオシャレな雰囲気です。のれんをくぐった先の脱衣所は、天井に花の絵が描かれていたり、洗面台のタイルがパステルカラーだったり、若い女性にも喜ばれるようなかわいらしい意匠が随所に施されていました。

東京浴場のフロント
ステンドグラスがレトロでかわいいフロント

東京浴場の天井
天井にはさまざまな花の絵が

東京浴場の内観
 パステルカラーのタイルが可愛らしい。女湯はピンク色

男湯の脱衣所の外には、さまざまな形や種類の岩で作られた池があり、立派な錦鯉が泳いでいます。長方形の大きな岩で滝を表現しているのも、おもしろい工夫です。

東京浴場の池
長方形の岩で滝の流れを表現

 池には立派な錦鯉が

栗生 東京の銭湯経営者は、北陸にルーツを持っている方が多いんです。先ほどの「明神湯」のご主人は石川県出身でしたが、この「東京浴場」の創業者の方は、新潟県・小千谷市のご出身。小千谷が錦鯉の発祥地として有名だということで、この池にも錦鯉を泳がせているというわけです。ただ、サギなどの野鳥に食べられてしまうことも多いと、嘆いていらっしゃいました。
 
東京浴場の浴室
浴室の壁にはカラフルで楽しいイラストが

浴室の壁には、定番の富士山ではなく、カラフルなイラストが。遊園地やビーチが描かれていて、見ているだけで楽しい気持ちになっています。

浴室から見た中庭の様子

また、男湯と女湯の間に中庭があるという珍しい構造をしているのも「東京浴場」ならではの特徴。緑を眺めながらお湯に浸かれば、リラックス効果がさらに高まりそうです。

3. 大盛湯:自然の力強さを感じる庭を眺めて、半露天風呂気分

 
最後は、徒歩で品川区・二葉の「大盛湯」へ向かいます。大きく張り出した「唐破風」が特徴で、とても迫力のある雰囲気です。「懸魚」には鶴と亀の意匠が施されています。

大盛湯の唐破風
大きく張り出した迫力ある「唐破風」

大盛湯の懸魚
鶴と亀の意匠が施された「懸魚」

現在のご主人は3代目ですが、初代のころからの景観を大切にしたいということで、1950年(昭和25年)の創業時から、番台をフロントに変えたこと以外は、ほとんど形を変えずに維持されているそう。

大盛湯の天井
 天井は互い違いの格子状

大盛湯の脱衣所の庭
脱衣所の外には広々とした庭が

のれんをくぐって脱衣所へ入ると、木の深い色合いが美しい、まさに昔ながらの雰囲気に魅了されます。外には広々とした庭もある贅沢な空間です。天井は互い違いの格子状になっていますが、これはかなり珍しいデザインなんだとか。
 
大盛湯の浴室
湯船の奥には絵ではなく本物の庭が覗く

かつては白い線の部分まで水が入っていて鯉も泳いでいたそう

浴室に入ると湯船の奥には、ペンキ絵ではなく大きな窓が。そこから、本物の庭が覗いています。ゴツゴツした岩や青々と茂る木々からは、自然の力強さが感じられました。窓を開ければ、半露天風呂のような気分も味わえそうです。かつては池もあり、鯉が泳ぐ姿を間近で見られたといいます。

 
スイスのシヨン城をモチーフにしたタイル絵

浴室内の絵はすべてヨーロッパ風

男湯と女湯の真ん中には、淡い色合いのタイル絵も飾られていました。こちらは、スイスのシヨン城をモチーフにしているのだとか。
 
栗生 銭湯といえば、富士山のペンキ絵の印象が強いかもしれませんが、実はヨーロッパ風の絵が描かれているところも多いんです。60年〜70年代のころ、とくに流行していたといいます。人々のなかで、海外への憧れが高まっていた時期なのかもしれませんね。

宮川大輔さんの「東京型銭湯大使」就任式に、小池都知事も登壇

 東京型銭湯大使就任式
三者三様の銭湯を巡る贅沢なツアーはここで終了。ひとくちに「東京型銭湯」といっても、それぞれが異なる魅力を持っていて、伝統の守るための工夫も多様であるということが、よくわかる経験でした。
 
そして、この日は大盛湯で「東京型銭湯大使」の就任式も行われました。大使に選ばれたのは、お笑い芸人の宮川大輔さん。東京都知事の小池百合子さんと、品川区長の森澤恭子さんも駆け付け、オリジナルの法被と桶と同じ黄色の眼鏡を贈呈していました。

左から、宮川大輔さん、小池百合子東京都知事、森澤恭子品川区長 

子どものころから銭湯好きだったという宮川さんは、25歳のとき関西から上京してきて、東京の銭湯文化に驚いた経験があるといいます。
 
宮川 関西と関東では、湯船の入り方が違うんですよね。関西ではかけ湯をしてすぐ“ドボン”なんですが、東京だとまず体を洗ってから湯船に浸かる。たぶん、関西人はせっかちなんでしょうね。それからお湯の温度も、東京のほうが高いです。熱いお風呂に浸かってサッと上がるというのが、ちゃきちゃきの江戸っ子らしい銭湯文化なんだなと思いました。

 
小池都知事が宮川大輔さんにオリジナル法被を贈呈

また、小池都知事は「東京型銭湯」の取り組みについて、こう語ります。
 
小池 魅力あふれる銭湯は憩いの場としても、人と人との繋がりが生まれる場としても親しまれており、地域のコミュニティで大切な役割を果たしてくれていると思います。だんだん銭湯の数が減っているなかで、宮造りなどの特徴を持つ「東京型銭湯」を残すことは、いったん失くしてしまうと取り戻せない、歴史を感じさせる“まちの表情“を守ることにもつながります。これまでの歴史や伝統と新しい工夫による革新とが一緒になったかたちで、「東京型銭湯」が地域の皆さんにも親しまれるような存在になってほしい。東京都はそのために支援、PRしていきたいと思います。

「東京型銭湯」で、心も体もリフレッシュしよう!

 
昔ながらの風情が残る「東京型銭湯」。今回、訪れた「明神湯」「東京浴場」「大盛湯」の3軒以外にも、伝統を守り続けている銭湯が都内にはいくつも残っています。東京都のホームページで一覧を見ることができるので、ぜひチェックしてみてください。「東京型銭湯」のアプリをダウンロードすれば、スタンプラリーにも挑戦できます。
 
できれば実際に足を運んで、積み重ねてきた歴史の重みを体感してみてほしいところですが、時間や距離の関係で、なかなか実現できないという人も多いと思います。そんな人はまず、Meta Bath」というオンライン展覧会を覗いてみてください。精彩な3Dデジタルデータによって、「東京型銭湯」ならではの雰囲気を疑似体験することができます
 
文化を守るという意義はもちろんですが、銭湯は何より、心も体もリフレッシュして、明日への英気と活力を補う場所。「東京型銭湯」に少しでも興味がわいたら、気軽にふらっと訪れてみることをおすすめします。

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この記事を書いたライター
近藤世菜
近藤世菜

エンタメ関連の記事を中心に執筆しているフリーライター。箱根や伊香保など、関東近郊の温泉地をふらっと訪れることが多い。趣味の推し活遠征の合間に、各地の日帰り温泉やスーパー銭湯で疲れを癒やすことも。

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