作成日:2024年09月09日
療養泉とは? 温泉との違いや泉質別の特徴を徹底解説【全国版】 全国
世界一とも言われる温泉大国「日本」。豊富な温泉資源を持ち、古の時代から温泉は様々な形で利用され続けました。中でも“療養泉”と呼ばれる温泉は優れた効能があるとされ、多くの湯治客や温泉ファンから愛されています。
今回は「療養泉」についてご紹介。単に法的な既成事実だけでなく、筆者独自の視点も一部交えながら徹底解説します。
今回は「療養泉」についてご紹介。単に法的な既成事実だけでなく、筆者独自の視点も一部交えながら徹底解説します。
療養泉とは。温泉との違いは何?
日本人にとって身近な存在である“温泉”。実は、温泉には「温泉法」という法律で定められた明確な定義があります。
日本の温泉法では、「温泉とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するもの」、と記されています。
別表では温度規定と含有する物質の規定があります。温度※は摂氏25度以上、もしくは25度未満でも定められた19項目の物質うち一つ以上に該当すれば、温泉になります。
※ここでの「温度」とは、源泉から採取されるときの温度を指します。
荒磯温泉「荒磯館」(島根県益田市)。温泉法に該当する規定泉です。
一方で療養泉とは、温泉のうち特に治療の目的に供し得る泉質を持つ温泉のことです。療養泉は環境省の「鉱泉分析法指針」に基づき、温度(摂氏25度以上)または主要な含有成分の量と種類によって細分化されます。
また療養泉には「泉質名」が付けられます。逆に療養泉に該当しない温泉は泉質名を付けることができず、「温泉法第2条別表の〇〇の項に該当する温泉」または簡略して「規定泉」などと呼ばれています。
ざっくりと言えば、温泉の中でも特に効能が期待できると認められるものが「療養泉」といっても差し支えないでしょう。
療養泉の種類&特徴
療養泉は大きく分けると3つに分類。さらに含有成分などによって、合計10種類の泉質に分類されます。
・単純温泉
温度規定をクリアした温泉
・塩類泉(塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉)
成分総量の規定をクリアした温泉
・特殊成分を含む療養泉(二酸化炭素泉・含鉄泉・酸性泉・含よう素泉・硫黄泉・放射能泉)
定められた6つの成分を規定量以上含む温泉
以下、療養泉の種類と特徴をご説明します。
単純温泉
単純温泉とは、「泉温が25度以上の温泉のうち、温泉1㎏中に含まれる気体以外の溶存物質の含有量が総量1000㎎(1g)未満の温泉」のことです。極論を言えば、含有成分がゼロでも源泉湧出時の温度が25度以上あれば療養泉に該当します。
「岩下温泉旅館」(山梨県山梨市)。癖の無い単純温泉ですが、湯治の名湯として古くから有名。
単純温泉は、日本では最も多い泉質。含有成分量は比較的少ないものの個性的な泉質も中にはあり、古くからの名湯には単純温泉であるものが数多くみられます。
塩類泉
塩類泉とは、「温泉水1kg中の溶存成分(ガス性のものを除く)が1,000mg(1g)を以上のもの」です。温泉に溶け込んだ成分が1㎏中に1g入っていれば、25度未満の冷たい温泉でも療養泉に該当します。
さらに塩類泉は、3種類(塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉)に分類されます。
会津東山温泉「向瀧」(福島県会津若松市)。硫酸塩泉の名湯&文化財の名宿です。
・塩化物泉
塩化物泉とは、「温泉水1kg中の溶存成分が1,000mgを超え、そのうち陰イオンの主成分が塩化物イオンのもの」です。さらには陽イオンの成分によって、食塩泉と塩化土類泉に細分化されます。
塩化物泉は、海水の様に塩味を感じる点が特徴で、カルシウム成分が多いと苦みも増します。浴用では保温&保湿効果に優れ、日本では単純温泉に次いで多い泉質です。
・炭酸水素塩泉
炭酸水素塩泉とは、「温泉水1kg中の溶存成分が1,000mgを超え、そのうち陰イオンの主成分が炭酸水素イオンのもの」です。さらには陽イオンの成分によって、重曹泉と重炭酸土類泉に細分化されます。
重曹泉はヌルヌルとした肌触りが特徴で、余分な角質を溶かして石鹸の様な効果を持つ美肌泉質。重炭酸土類泉は、析出物と呼ばれる温泉成分が湯船の縁などに付着・堆積しやすい泉質です。
・硫酸塩泉
硫酸塩泉とは、「温泉水1kg中の溶存成分が1,000mgを超え、そのうち陰イオンの主成分が硫酸イオンのもの」です。さらには陽イオンの成分によって、芒硝泉・石膏泉・正苦味泉に細分化されます。
硫酸塩泉は、血行促進効果やきりきずの治癒効果などに優れた泉質。肌に優しく保湿効果にも優れ、体の内からも外からも効能が期待できる万能型温泉と言えるでしょう。どちらかと言えば東日本に多く分布しています。
特殊成分を含む療養泉
特殊成分を含む温泉とは、「遊離二酸化炭素・総鉄イオン・水素イオン・よう化物イオン・総硫黄・ラドンのいずれかの特殊成分を規定値以上含む温泉」のこと。これらの成分は概して少量でも治癒効果を期待でき、結果として個性的な温泉も数多く見られます。
さらに特殊成分を含む温泉は、以下の6種類に分類されます。
「HOTELシーサイド島原」(長崎県島原市)。高濃度の炭酸泉で、入浴すると体中アワアワに!
・二酸化炭素泉
二酸化炭素泉とは、「温泉水1kg中に遊離二酸化炭素(遊離炭酸)を1,000mg以上含有するもの」。炭酸泉とも呼ばれ、近年は全国各地で人口炭酸泉が増加傾向。天然の炭酸泉は日本では数少ないですが、比較的西日本に多い傾向にあります。
入浴すると血管を拡げる作用があり、血流改善効果に優れる点が特徴。お湯の使い方次第で体中に泡が付着する場合もあり、温泉ファンに大変人気の高い泉質の一つです。
・含鉄泉
含鉄泉とは、「温泉水1kg中に総鉄イオンを20㎎以上含有するもの」。鉄が錆びる原理と同じで、時間が経過すると無色透明から赤褐色に変化して濁る点が特徴です。
適応症は、貧血症や更年期障害など。少量の鉄分を含む温泉は全国的に数多くありますが、20㎎/㎏以上含有する含鉄泉は貴重な存在です。
・酸性泉
酸性泉とは、「温泉水1kg中に水素イオンを1㎎以上含有するもの」。強い酸味がある点が特徴で、pH2未満のものは強酸性泉と分類されます。
適応症は、殺菌効果や肌を剥がすことによる新陳代謝の促進など。肌の刺激が強い泉質なため、肌の弱い人は浴後に真水で洗い流した方が良い場合も。例外もありますが、火山の近くに分布する傾向にあります。
・含よう素泉
含よう素泉とは、「温泉水1kg中によう化物イオンを10mg以上含有するもの」。2014年の鉱泉分析指針の改定により新たに追加された泉質です。
適応症は、飲用で高コレステロール血症。よう素を含むために源泉湧出時から色付き、特有の薬品っぽい香りが特徴。東日本の日本海沿岸に比較的多い泉質です。
・硫黄泉
硫黄泉とは、「温泉水1kg中に総硫黄を2㎎以上含有するもの」。硫化水素型と硫黄型に大別されます。硫化水素型は白濁することが多く、独特の硫化水素臭が特徴の泉質。硫黄型は無色透明が多い一方、緑色に変化する場合もあり、温泉通に人気の高い泉質です。
適応症は、慢性皮膚病や高血圧症など多彩。火山が多い日本では比較的多い泉質※です。
※非火山性の硫黄泉も中にはあります。
・放射能泉
放射能泉とは、「温泉水1kg中にラドンを3ナノキュリー以上(8.25マッヘ単位以上)含有するもの」。別名ラドン温泉とも呼ばれています。近年は人工ラドン泉も増加傾向ですが、天然の放射能泉は数少ない存在。比較的西日本に多く分布する泉質です。
放射能泉自体は無色透明で匂いも味もありませんが、「万病の湯」と言われる泉質。特に痛風や慢性リューマチの治癒に定評があります。温泉湧出後はラドンが空気中に飛散するので、源泉の使い方や鮮度が特に求められる泉質です。
三朝温泉「旅館大橋」(鳥取県三朝町)。一つの浴場に足元湧出の放射能泉が3つあります。
入浴すると逆に悪い場合も?温泉の禁忌症
以上、療養泉についてご紹介させていただきました。しかし温泉には禁忌症(きんきしょう)※があり、温泉に入浴すると逆に悪い場合もあります。
※禁忌症とは、「1回の温泉入浴又は飲用でも有害事象を生ずる危険性がある病気・病態」のこと。
禁忌症には、泉質に関わらない「一般的禁忌症」と「泉質別禁忌症」があります。
一般的禁忌症は、以下の通りです。
1. 病気の活動期(特に熱のあるとき)
2. 活動性の結核、進行した悪性腫瘍又は高度の貧血など身体衰弱の著しい場合
3. 少し動くと息苦しくなるような重い心臓又は肺の病気、むくみのあるような重い腎臓の病気がある方
4. 消化管出血、目に見える出血があるとき
5. 慢性の病気の急性増悪期
泉質別禁忌症は、酸性泉と硫黄泉の場合、以下の通りです。
1. 皮膚又は粘膜の過敏な人
2. 高齢者の皮膚乾燥症
酸性泉と硫黄泉(特に硫化水素型)は、一般的に皮膚への刺激が比較的強い泉質。健常者でも入浴後はシャワー(非温泉)で体を洗い流した方が良い場合があります。
蔵王温泉「深山荘 高見屋」(山形県山形市)。日本屈指の強酸性泉の一つです。
これは筆者の経験則になりますが、アルカリ性の高い温泉や重曹泉(ナトリウム-炭酸水素塩泉)に入浴すると、その洗浄力の高さによって逆に肌荒れを起こす場合があります。
この対処法としては、以下の様な例が挙げられます。
1. 入浴後直ちに市販の保湿剤を肌に塗る。
2. 付近に塩化物泉(食塩泉)か硫酸塩泉がある場合、それらの温泉に入浴する。
川古温泉「浜屋旅館」(群馬県みなかみ町)。古くからある硫酸塩泉の名湯です。
高アルカリ泉や重曹泉で毛穴の汚れや余分な皮脂を落とした後に、保湿力の高い塩化物泉や硫酸塩泉に入浴すると、まるでシャンプー&リンス効果の様に肌がしっとりと潤います。
療養泉の特徴を知るメリットとは
また、その他に温泉利用の際の注意点として、
1. 食事の直前直後や飲酒後の入浴は控える
2. 高齢者・子供・身体の不自由な方は1人きりの入浴は避ける
3. 入浴前後の水分補給を取る
4. 過度の疲労時や運動後30分間は入浴を避ける
などが挙げられます。
とはいえ、「どういう時に入浴して良い?」または「入浴しない方が良い?」という実際の判断は、温泉が詳しくない人にとっては中々難しいもの。しかし、上記でご紹介した療養泉全10種類の特徴を大まかでも知っておくと、入浴の際の判断材料になります。
また泉質別の特徴が分かるようになると、好みの温泉を自分で探せる様にもなり、より有意義な温泉入浴を楽しめるでしょう。
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