共同湯の「原点」楽しめた不老泉、ありがとう
[大分県] 不老泉
今回の温泉探訪記ガイドはこの人
温泉ソムリエ、別府八湯温泉道3757代名人になりました。
カランもない、座椅子もない。あるのは、沸き上がったばかりのアチチの湯を満たした湯船だけ…。
別府には100カ所を超す共同湯(銭湯の温泉版)が街のそこかしこにあります。重曹系や土類系など個性的な泉質やひなびた雰囲気が魅力ですが、湯栓の開け閉めや体を洗う場所など、暗黙の地元ルールがそれぞれにあります。慣れるには、常連さんに聞きながら、そして数をこなしながら…。別府八湯温泉道が「修行」とも呼ばれる所以でしょう。
別府共同湯の入浴マナーや楽しみ方を知るのに最適だったのが、老朽化のため9月23日で利用が終了し、来年8月に新築される市営温泉「不老泉」でした。22日にあった「大分の温泉シンポ」に合わせ、味わいのある浴場と湯を体と心に染み込ませてきました。
別府駅からも近く、堂々たる3階建て 年14万人が利用
駅からも近く、明治のころから利用が始まったといわれます。昭和32年に建てられた建物は堂々たる3階建て。1階が男女別の温泉浴室、 2階は公民館、3階が集会室でした。広々とした空き地があり、ゲートボールなど市民の憩いの場としても親しまれてきたそうです。年間約14万8千人(2012年度)もの入浴客があり、堀田、浜脇に次ぐ多さでした。
半地下スタイルの造り 浴槽も脱衣所も広い!
不老泉の特徴は、まず「広い」こと。大分合同新聞の記事では、「市営温泉で最大の浴室(約90平方メートル)、浴槽(約18平方メートル)」とありました。脱衣所も50人くらいの木製の衣服入れが並び、天井も高く、圧迫感がありません。
脱衣所から10数段の階段を降りたところに湯船があります。別府らしさの象徴でもある半地下スタイルも貴重でした。浴槽は縦長の楕円型。奥は浅めの作りになっていて、この周りでまずは体を洗っていました。タイルも凝った格子模様や青やピンクとよく見ればカラフルで、モダンな造りがうかがえます。
ミネラル感ある単純温泉は気持ちいいアチチの湯
そしてもう一つが「アチチの湯」です。湯船には水の蛇口が一つだけ。時にドバドバと冷ましてそのあたりに入っている方もいらっしゃいましたが、基本は44か45度くらいはあったのではないでしょうか。ジーンとした刺激がまず皮膚を包み、腰まで浸かれば体の芯へと伝わってきます。もちろん、つかるのは2、3分くらいを繰り返します。
湯船の外では、アチチの湯を桶でくみ、広々とした浴場を眺めながら体を流します。「あぁ気持ちええ」「ザバーン」。いろんな声や音がホールのように響き渡ります。そしてまたザブン。この感覚がけっこう気持ちいいものでした。
分析書を見ると、自家源泉は湧出時49度の弱アルカリ性単純温泉。成分的には土類系の炭酸水素塩泉に近く、肌触りは少しキュキュッとした印象で、若干のミネラルっぽさを感じます。メタけい酸の含有量が多いのも特徴でしょう。析出物がそこそこな感じが、ちょうどいいひなび度を演出したことも見逃せません。
ジンジン、そしてサッパリとした浴感は入りやすさでもとてもお気に入りの湯でした。
レトロモダンを惜しむ声も 来年8月に新生
別府は今、共同湯巡りを大きくPRしています。タツノコプロの宣伝キャラがのれんを飾ったり、2カ所入浴で気軽に温泉道「初級」が得られたり。共同湯やホテル・旅館などを一覧した新しい「温泉本」(500円)も先週、発売になりました。
不老泉は、別府八湯温泉道名人を成し遂げた今年3月の「祝い一番湯」でもあり、6月に温泉道名人会の仲間とお掃除プロジェクトに参加した思い出の場所でもあります。22日は惜しむように建物の周辺をグルリ見渡してみました。昔の門柱や脚線美のような階段…。で建築文化の面でも、これだけ大規模で地域に活用されてきた共同湯施設はなかなかないのではないでしょうか。
新しい不老泉は、全国でも珍しい商工会議所との併設になり、湯船は以前と同じ大きさを確保。ぬる湯とあつ湯に分けられます。別府共同湯の代表とえば「竹瓦温泉」が挙げられますが、新しい不老泉はより地域に密着した共同湯文化が楽しめる場所としてあり続けてほしいと願っています。
2013年9月中旬に「ファイナル不老泉」を堪能してきました。
近年不老泉に入り始め、とても気に入り・・・そしてリニューアルのため閉館・・・
やっぱ寂しいですね(^^;