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年明け早々訪れたのがここ湯布院。街中より少々外れの閑静な地に立つのが今宵の宿「おやど開花亭」である。駐車スペースに車を停車させた時には、早々と出迎えを受け、短い距離ではあるが石段のアプローチの先に古民家風な母屋がどっしりと構えているのだ。小さい屋号を染め抜いた暖簾をくぐれば一見殺風景に映るロビーは、しっとりとした土間造りでレトロな雰囲気。片隅には、書やテーブルを配し、さり気ないインテリアにもセンスの良さが感じられクラシカルな風情を漂わせているのだ。お洒落なガラス窓の先に見える中庭に目をやりながらまずは一服。記帳を済ませ離れへと案内されたのである。
離れへの唯一の通路とも言うべき母屋の奥戸の先には、手入れの行き届いた小ぶりな中庭が拡がる。そこには、小さな小川が流れ、ゆるやかなスロープ状の両脇に数棟の離れが寄り添うように点在している。敷地は広くないのだが、周りの草木と建屋が絶妙に調和しており心和む雰囲気。通された客室「こぶしの間」は、一番奥まった左手に位置する。外観はごく普通の建屋だが、一変室内はこちらも古民家風で広々とした玄関に趣きある広縁も土間造り。太い梁の柱など古木材と珪藻土をあしらった8畳+6畳という広々とした佇まいは、細部にまで凝った造り。また、檜+モザイクを施した内風呂に岩露天も付いており、居心地を追求してるプライベートな空間は何とも落ち着け素晴らしい。
温泉は二本の源泉より完全掛け流しの単純泉。この宿には大浴場はないのだが、由布岳を望める貸切り露天「福万の湯」と「由布の湯」の2ヶ所を持つ。どちらも個性的で清潔感ある浴槽には、ザボンがいくつも浮かんでいる。どっぷりと腰を下ろして浸かれば、前方に施してある目貼りが少々邪魔をして由布岳を望めないのだが、腰を上げたり浴槽の淵に座れば望めるといった具合だ。(私にはかなり熱湯)客室風呂にはザボンが一つ。大きなガラス張りの窓からは、露天とこぶりな庭を眺められるが、(ここも熱湯)加水せず我慢して入ったのだが、のぼせて降参。露天の方は適温で入り心地もよく広さは大人二人で限界、手足を伸ばせば一人用といったところかな。室内同様にここからも由布岳を望むことは出来ないのだが、母屋より見て右側に位置する離れ数棟からは、望むことが出来ると思う。
食事は朝夕とも個室食事処テーブル席にて戴いた。地の旬の素材を使った創作風な膳は、特筆すべき一品はないのだが、どれもなかなか手が込んでいる。良い意味、器をはじめ奇をてらわない高級家庭会席料理といった感じで品書きはなく気軽に楽しめた。(朝食も同様)一つ思ったことだが、通された個室処が「はぎ」となってたことかな。おそらく普段は、客室名と同じ処へ案内されると思うのだが、宿の配慮で眺めの良い処へ変更して頂いたのなら嬉しいが、当日は宿泊客が数組だったためか、配膳の行いやすい処へ通されたのなら少々不満。どこで食しても味は変わらないけど、こういったこだわりも必要じゃないかと。細かな点にも客の目は行き届くのである。(宿の方針なら致し方ないけど)
この宿へは、初めての宿泊であったが一番感心したのは、いい距離感を保ちながらの心和む接客の良さ。(ほとんど女性の方だったが、特に私どもに付いてくださった初老の男性の方に好感)それだけでも、もてなしの質の高さが感じられた。閑静な佇まいには、パブリック施設をはじめ大浴場に自販機などもなく「何もない」といったプライバシーを重視した、宿の持つ個性がなんとなく感じ取れた気がした。まだまだ目には見えないものがありそうで2度3度と足を運びたくなる宿でもあった。翌朝、天候にも恵まれたせいか、貸切り露天より望めた由布岳の山頂が、霧の海から突出するさまは実に印象的だった。秋以外でも拝めるんだなとそれらの余韻に浸りながらこの良宿を後にした。HPを見て頂いたらお分かりだが、この湯布院で(一戸建ての離れに二間続き+内湯に露天付き)はリーズナブルな宿泊料金に入るだろう。(08,1月宿泊)0人が参考にしています