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長野自動車道松本ICから車で20分ほど、松本の奥座敷の古湯、浅間温泉にある共同湯である。かつての置屋の風情を残す温泉街には多数の地元専用の共同湯が存在するらしく、実のところ私はそのジモ泉の類に惹かれるものがあるのだが、初心者ゆえ一応ガイドブックにも載っている一般客も入浴可能な当湯に入浴を乞うた。浅間温泉街には共同湯の他に日帰り施設の類が複数あるが、料金が800円と割高のうえ、アル単の循環湯であり、加水・加温・塩素消毒の四重苦、信州まで来て大阪の有象無象のスー銭の類と同様の湯に入るのはあまりにも悲しすぎる。温泉地においてもサウナやボディシャンプーがなければ我慢できない奇特な人は別にして、やはりここでは共同湯に入るのがお得であるし、旅情も感じられるというもの。
共同湯とは申せ、建物は二階建てで比較的新しい民芸調、内部の造作は小型の銭湯並みで極めてシンプル。自動販売機で購入した券を番台で手渡すシステムも銭湯同様。脱衣場も浴室も小振りなもので、浴室の奥いっぱいに利用して造られた横長の浴槽が一つあるのみである。
湯はやや熱めで、無色透明。微硫黄臭表記されているが、特段の味覚・臭気はなし。浴感も特別のものはなく、無個性な湯である。ただ、かけ流しであり、湯口から飲泉も可能。湯中に糸くず状の湯の花漂う純粋の天然温泉であることには違いない。泉質はアルカリ性単純泉で、四つの源泉の混合泉を引湯してある。カランも四つあり、一般客にも対応した造りになっている。
温泉地のジモ泉に近い共同湯に入るのはある意味難しい。私が共同湯に入る際には、自分の存在を極力消すようにしている。目立たぬよう静かに湯に入り、聞き耳を立てる。地元の常連客にとっては空いている方がありがたいと思うのが自然で、地方の素朴な共同湯の常連客が皆、部外者に心底親しみを抱くなどということはあり得ない。この世に天国などないし、共同湯も天国ではない。部外者が共同湯で狼藉など論外だが、常連客が共同湯で狼藉というのも案外あるもので、私がここに入浴して常連客を観察した印象は、むしろ悲しい人間の性のようなものだった。6人が参考にしています