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酒倉をそっくり移設した建造物は重厚で、雰囲気作りはさすがに上手だと感服する。入浴設備は綺麗に清掃され、水質管理も常時行われており、安心感がある。
泉源を多数有し、すべての浴槽が天然温泉で満たされており、飲泉は可能だし、ジェットやジャグジーなど余計な機能バスもない。水風呂も天然の地下水そのままを利用し、少々数が少なかったカランも増設された。浴室内の雰囲気も明るすぎない照明や木造の重厚さが好ましい。即ちすべてにおいてソツがないのだ。
ソツがないこの施設、それなら最高かと問われれば、それは少々疑問なのである。
内湯にある大浴場の褐色濁りの湯は秀逸だと認めざるを得ない。しかしこの湯は第一泉源の湯を第四泉源の湯で六倍に希釈した代物で、貼紙にも、湯あたりを避け浴用に適するように加工した趣旨のことが記載されている。全国で四番目に濃厚な高張泉であることを強調したいなら無理に希釈する必要などあるのか疑問だ。
全国で一番の高張泉である有馬温泉の天神泉源の湯をそのまま湯舟に引いている上大坊の湯に入る人に、湯あたりする人が頻発しているなどの話は聞いたことがないし、濃厚極まりない花山温泉の湯が、希釈していないからといって浴用に適さないなどといった話も聞いたことがない。つまり、ここでの六倍希釈というのは浴用に適させるという良心からではなく、温泉資源の有効利用という経済合理性に過ぎないのである。
また、以前入浴した折よりも塩素の臭気を露骨に感知したが、衛生管理のために終日浴槽水を自動的に塩素により殺菌するシステムを導入したらしい。確かに雑菌は死滅するが、温泉も同時に死ぬのでいささか悩ましいところ。小浴場や露天風呂は完全に塩素の臭気しかしない湯になっている。浴槽に注がれる湯が飲用可能だからかけ流しに違いないという人もいるが、残念ながら世の中そう甘くない、循環浴槽に源泉を注入する浴槽など世間にいくらでもある。いわゆる半循環という代物である。
私も都会のスーパー銭湯より余程この施設が好ましいと思う。しかし、過剰な加工がやはり目についてしまい、折角の重厚な雰囲気も私にとっては台無しなのだ。
ここを運営する経営者は賢明だと思う。賢明だとは思うが良心的だとは思わない。温泉に経済合理性はやはりそぐわない。0人が参考にしています