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天平年間開湯という半端ではない歴史を持つ木津温泉、ゑびすやは創業75年の老舗で、松本清張が執筆を兼ね2ヶ月投宿したことで知られる。まことにのどかな温泉街なのだが、その中では規模的にも目立つ存在だ。しかし、近代的ホテルの外観ではないことには好感を抱く。こんな素朴なところに高層ビルなんぞ建てるのは狂気の沙汰だ。
かけ流しにこだわったため、本館の貸切湯を利用した。旅館の方のお話では、貸し切り湯には自家源泉を利用している由。「ごんすけの湯」と「しずかの湯」のふたつがあり、私が利用したのは前者、清張も投宿時に入浴した知る人ぞ知る湯。新館の内湯並びに露天風呂の立ち寄り湯は600円である一方、こちらは1050円必要。立ち寄り湯の場合、事前に電話連絡で予約するのが無難である。
浴槽、浴室ともに小さなものだが、天井にステンドグラスを配し、浴槽の底には緑色のタイル、源泉注入口の上には花が配置され、凝った演出がなされている。とは言え、浴室浴槽ともタイル地が基調で、小奇麗ではあるものの、大正浪漫溢れた本館の雰囲気と比較してやや違和感がある。情緒面で演出不足ではなかろうか。
木質の注入口からは常時湯がかけ流され、また一方にはライオン口の注入口がある。ここからは温度調整用の本泉を手動で注入することになる。要するに、熱ければ冷泉でうめればよいと言うこと。ここの泉温は40度少々、なのに本泉は冷たいのはなぜかしらん。まさか水道水ではないと思うが。
無色透明無味無臭といった清明な湯で、個性は薄い。しらさぎ荘に入浴後に来たため余計に感じるのかもしれないが、天然温泉の実感が薄い。勿論塩素臭など一切しない。しかし、しらさぎ荘で実感した硫化水素臭や炭酸の泡付きがない。泉質面ではしらさぎ荘の湯に軍配が上がる。
私は立ち寄り湯での利用であったため、湯と浴室の雰囲気でしか判断できない。情緒ある旅館であるので、宿泊してみるのが望ましい。周囲は何もない長閑な田舎である。でも、田舎の良い匂いがする。田舎の匂いが好きな人にとっては、この木津温泉、最適ではなかろうか。1人が参考にしています