-
国道24号線沿いの「きよもんの湯」横の道を海岸方面に入り、トンネル、JR線の線路を越え、海沿いに走りますと、左手に見えてまいります。勝浦温泉の温泉街とも、湯川温泉とも少し離れた所に位置する一軒宿、勝浦温泉郷に包含され、泉質も似通ってはございますが、勝浦では「ホテル浦島」等の大型ホテルに宿泊すること以外眼中にない一般の観光客の皆様方には、恐らく完全にスルーされてしまう存在ではありましょう。
歴史的建造物と言っても過言ではない荘厳な雰囲気の旅館とは全く異なり、旅館と民宿の中間領域に近い、一見田舎の老朽化した校舎ともおぼしき風情ではございますが、内部は綺麗に使用されており、清潔さでは何等問題なく、浮世の辛さから離れて静かに骨休めしたい向きには、寧ろ人の少ないこのような宿が好都合でございましょうし、わたくしもそのような嗜好に加えて確かな温泉力を求め、宿泊の場といたしたのでございます。
温泉宿の主たる売りはやはり温泉、この旅館の温泉は湯量豊富で、曲面を採用したタイル地の、せいぜい4~5人入ればいっぱいになるであろう小型の浴槽に耐えることなく源泉が注ぎ込まれており、源泉が勿体無く思われるほどの激しいオーバーフローなのでございます。従いまして、二人ほどが同時に湯船に身を浸しますと、大量の湯が湯船から流れ出し、洗面器が津波に流され排水溝周辺で激しく踊る事態に陥り、これもまたこの宿の名物とも言えましょう。単純硫黄泉の40度以下のぬる湯は長湯が可能、この周辺の温泉と同様、たまご臭とほのかな甘味、肌触りの柔らかさは絶品で、宿の風情と相まって、神経を休めてくれる効能あらかたでございます。もちろん飲泉も可能、無加水・無加温・塩素消毒なしの一切混じり気のない純然たる源泉かけ流しで、湯量豊富が為せる業、確かな温泉力で宿を選ぶなら、この宿は文句のつけようがございません。
宿泊料金も大型ホテルなどとは比較にならぬ程リーズナブル、8000円から宿泊が可能で、素朴な老夫婦が二人で切盛りされておられる関係上、豪華さは期待できませんが、値段相応かそれ以上の内容であります。わたくしの宿泊時は貸切状態で、混雑することはほとんど想定できないと思われ、豪華な宿やアメニティに優れるホテルにこだわる方々には不向きでありましょうが、静かな休息や良質の温泉を求める方々には一押しの一軒宿と申せましょう。静かに癒されること、間違いございません。
300円で立寄り湯も可能で、豪快なかけ流しと洗面器の舞を一度体験してみるのもよろしかろうと存じます。3人が参考にしています