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「中屋本館」は霊泉寺温泉にある宿です。この夏、立ち寄りました。事前に連絡しておいたほうが無難との情報を得ていたので、訪ねる1時間ほど前に電話をすると、快く「いいですよ」とのお返事をいただき、心弾ませながら車を走らせました。
霊泉寺温泉は国道254号を霊泉寺川に沿って少し遡ったところにあるのですが、この田んぼの中をはしる道路がところどころ狭くなっているため、アクセスにやや難があります。橋を渡り、大きなケヤキの古木のたつ霊泉禅寺の前を過ぎると、数軒の温泉宿が肩を寄せ合うように建っています。その中ほどにお目当ての「中屋本館」がありました。
ひと昔以上前に改装したと思われる建物はどこにでもあるような木造の2階建てですが、玄関だけはそれ以前のものであるらしく、風雪(まさに雪)に耐えた味わい深いものです。ロビーや廊下も年季が入っています。その年季を感じさせるものの中で、娯楽室の隅が物置のように使われていたのは少し残念です。上手に使えば宿の雰囲気はさらによくなると思われたからです。
お風呂はタイル張りです。(天井も以前はタイルが張られていたと思われますが、今は地が剥き出しになっていて、これも見栄えはよくありませんでした。)横長の四角い湯舟が一つだけの簡素なものです。そこに竹筒の湯口から湯が注がれています。放流式ですが、湯舟の縁からお湯が溢れるのではなく、浴槽内の穴から水圧で押し出されたお湯が浴室の穴から出てくるようになっています。お湯は無色透明でにおいもあまりありません。源泉をそのまま注いでいるのか、温めのお湯でした。長湯ができると思われそうですが、浴室の窓を開けることができず、湯気がこもっていますので、長くは入っていられませんでした。石膏泉らしく、舐めると苦味があります。
この宿には男女別の浴場のほかに貸し切り風呂である「笹舟の湯」があります。タイル張りではありますが文字通り笹舟の形をした珍しい湯舟です。この「笹舟の湯」は武者小路実篤のお気に入りのお風呂だったそうで、命名も実篤によるものだそうです。二人が入るのが精一杯ですが、湯舟が小さい分、新鮮なお湯をゆっくり楽しむことができます。ここを訪れたならぜひ「笹舟の湯」に入って見てください。
湯上りにはロビーでアイスティーをご馳走になりました。温いわりには体があたままる湯で、風に吹かれて体をさましながらいただいたアイスティーはとてもおいしかったです。(ずうずうしくもおかわりをしてしまいました。)ひとしきり、この辺りの四季の様子や霊泉禅寺の話をして楽しい時を過ごしました。立ち寄りの客もたいへん丁寧に迎え入れてくださり、快適に温泉を楽しむことができました。7人が参考にしています