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国道から細い路地を入り、ダム湖半にひときわ目立つ建物がこの湖泉閣吉乃屋、建物は比較的大規模であるが、内部は和風で統一されている旅館である。玄関前にはチャボが三匹放し飼いされてお出迎えといった按配、十津川の温泉宿でよく見かける源泉かけ流しを表示した提灯がここでも掲げられ、十津川村挙げての源泉かけ流しキャンペーンの面目躍如といったところ。それにつけても、観光バスなど入り込めない路地の狭さがまた良い。十津川温泉に団体客は似合わない。
内湯もあるが、ここでは露天風呂がなんと言っても目玉だろう。エメラルドグリーンのダム湖を見渡せる絶景の露天風呂は開放感抜群で、かつ情緒溢れる。大きな水車がある石造りの露天に温泉が満たされ、眼前が見事なダム湖、横には「万寿風呂」と銘打たれた、樹齢550年という、とちの木をくり貫いた浴槽がある。基本的に一人用の浴槽で、随分とユニーク、湯温が低く快適であった。
温泉は、温泉地温泉の泉質ほど硫黄臭が強くないが、芳しい天然温泉の香り、源泉率100%の純然たる天然温泉を堪能できる。水車からはぬるい湯が注入され、これも天然温泉、「万寿風呂」にも石造りの露天風呂にも源泉が注がれ飲泉も可能である。飲泉可能な湯にそのまま入浴できるというのは随分と贅沢な思いがするものだ。
なお、女湯も基本的に同様の造作であるが、「万寿風呂」の代わりに「ちん木風呂」というこれも木をくり貫いた一人用の浴槽があり、石造りの露天風呂と水車は男湯と比較してやや小さめ。
十津川温泉郷の源泉温度は高く、そのまま湯舟に注入すると熱すぎる。そこで、この旅館ではホースをダム湖に沈めて湯温を下げることにより、加水することなく源泉率100%の湯を湯舟に注入している由。源泉にこだわるその姿勢に敬服する。こんな温泉宿こそ良心的と形容してよい。1人が参考にしています