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白神山地の中のような山道を5kmほど進むと宿が現れた。湯治宿ばかり泊まっている自分には少々贅沢だが、自炊棟ばかりじゃ家内もつきあってくれない。
各部屋にかけ流しの露天風呂が併設されているが、この日宿泊した部屋は「唐くれない」という和室。部屋からも風呂からも抱返り渓谷を流れる玉川が見える。
部屋風呂以外に立派なヒバ造りの共同浴場、貸切で利用する露天があり、いずれも静かに無色透明な湯を湛えている。湯はうっすら石膏臭を帯び、口に含めばじわっとタマゴ臭が広がる。湧出量は150L/min.とのことだが、その量で館内全ての浴槽を満たすことができるのだろうかと思った。
澄明な弱アルカリ性の芒硝泉。一見、特徴なさげに思えたが、何度も入っているうちに実はなかなか湯力があるように思えてきた。浴後のからだの温まり感が長続きするようだ。これまでどちらかといえば湯に特徴を求め、これからもその考えは変わらないと思うが、無色透明な湯の奥深さを思い知る良い機会だった。
夕暮れ時、部屋の露天風呂から空を見上げると、数え切れないほどのトンボが上空を舞っていた。夜中、幾筋もの流れ星を見た。夜明けの雲の色が変わっていく様も見逃せなかった。温泉でこれほどまでリラックスできたのは久しぶり。
お風呂以外にも心地良く思えた点が幾つもあり、のんびり落ち着ける良い宿だと思う。13人が参考にしています