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銭湯は下町が似合う。浮世の憂さを晴らすには銭湯がよろしいので、私は頻繁に仕事の帰りにスーツのまま銭湯へ、それも良質の温泉銭湯へ赴くのが癖になっている。日常の疲れを癒すだけでなく、銭湯、特に下町の銭湯は、私の懐古趣味を満足させるに充分であり、大人のまま子供に戻る快楽もまた捨てがたいのである。そのうえ天然温泉がかけ流されていたりすればもう私にとっては桃源郷である。尼崎の下町の最たる所にある蓬莱湯さんは、従来から最も好きな銭湯の一つであったが、今月15日、その蓬莱湯さんがリニュアルオープンをされた。待ち遠しく16日に早速お邪魔した次第。
従来より奇を衒わない普通の造作の下町の銭湯であり、私はリニュアルにあたり、下町情緒を残したままの造作であってほしかった。そして温泉の利用方法も従来どおりとしてほしかった。期待に胸震わせ訪問した結果は、予想を上回る素晴らしきものであった。
現状の建物を増築するのでなく、見事に改築されている。正面の外壁から既に従来の銭湯としての平凡な造作ではなく、品の良い茶色の木質の壁となり、エントランスも従来のイメージを一変するものである。カウンター方式に変化はないが、待合が広くとられ、脱衣場がやや狭くなった造作、待合のテーブル等も全て木質で統一され落ち着いた雰囲気が好ましい。脱衣場もさすがに品が良く、男湯の脱衣場からは小さな坪庭が覗けるようになっている。金ピカのリニュアルとは対照的に、品の良い清潔さが滲み出る。従来からあったアナログ体重計がそのまま利用されるなど、古きものも大事に継続利用されているのも好ましい。
浴室に入るなり、「ああ、やはり蓬莱湯だ!」との印象、全てが一新されている一方で、全てが残されているのである。従来からの、中央に浅・深・ジャグジーの天然温泉主浴槽がそのままの位置に残され、奥に白湯と水風呂、それにミストサウナも変わらずに存在する。新たに付加されたのは二人架けの足湯兼座り風呂くらい。つまり従来のイメージと浴槽をそのまま利用しつつ、改装されたのである。ただし単なる改装ではない。全ての浴槽が重厚かつ上品に仕上げられている。屋根の形状もアーチ型の柔らかな個性的な形状で、そしてオレンジを基調とする照明は気分を落ち着かせるに充分である。普通の銭湯でここまで瀟洒でかつ品の良い造作はなかなか見当たらない。
造作だけではなく、天然温泉の利用法も寸分変わらず、中央の深い浴槽には源泉がかけ流され、万人受けする優しい泉質とほのかな硫化水素臭はそのままで、全てが新しい清潔感と懐かしさを同時に感受でき、まことに気分の良い入浴を体験できた。また、新しい付属の風呂桶が個性的で、ぜひとも一度見ていただきたい。卵の殻を半分に割って取っ手部分に穴を開けたようなユニークな形状で、一つ一つに手書きで「ほうらい湯」の文字と顔が書かれている。それを見るだけでも気分が和んだ。
まさに「大改造!!劇的ビォーアフター」銭湯版とも言うべき画期的リニュアル、聞けば五年越しの構想が実った由。気合充分である。古きを温め新しき技法を採り入れ、飽くまで蓬莱湯らしさを残した改造は賞賛されるべきと思われる。全てが生まれ変わったこの銭湯に、新たに採点しておきたい。
私はこの下町の銭湯が、運営されるご家族と併せて益々好きになった。1人が参考にしています