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約1年振りに再訪した。尼崎の阪神沿線、それも出屋敷やセンタープール前というと下町の最たるもの、そんな下町の路地にひっそりと佇む蓬莱湯は下町情緒満点の、共同湯ともおぼしき素朴な温泉銭湯である。近隣に築地戎湯という、実力満点の温泉銭湯があるが、こちらは湯あそびひろば系の近代的施設で、よそ者が入ってもあまり違和感がない一方、蓬莱湯はもっと規模の小さな共同湯に近い雰囲気で、銭湯に慣れない人にとっては、未知の地域共同体の中に潜入するかのごとき一種の緊張感を強いられるかも知れない。私はこのような雰囲気が好きでたまらないのであるが。
刺青を彫った人達も入浴しているが、下町の銭湯では常識の範囲内である。
浴室の戸を開けると、ほのかな硫黄臭が鼻を衝く。これは近代的なスーパー銭湯では絶対に経験できない。主浴槽である中央の天然温泉浴槽に身を沈めると、柔らかな湯の感覚につつまれる。湯口から注がれている湯をすくってみると、新鮮な天然温泉の香りがする。循環はなされているが、硫黄臭がする新鮮な湯が潤沢に湯舟に注がれているために、半循環と申すべきだろう。
温泉の利用についての説明書きが新たに貼付されており、読んでみると三つの趣旨が書かれてある。加温のため循環濾過していること、消毒剤を投入していること、温泉浴槽については源泉そのままを利用していることである。一見矛盾しているかのごとき記述だが、三つめの「源泉そのままを利用」との意味合いは、加水等の添加はなされていないという趣旨なのだろう。塩素消毒がなされているといっても、ほとんど塩素臭などしない。ここの温泉は優れものである。
カウンター前の休息場所などは小振りなものであるけれども、植木鉢などが置かれ、綺麗に演出されている。そんなに新しい銭湯ではないが、小奇麗にまとめられている。
下町情緒と優れた天然温泉、それにペット用の温泉シャワーなども併設するなどのユニークな試みもなされ、近くにこんな銭湯があれば随分と重宝するものと思われる。まさに下町の桃源郷のごとき存在だ。1人が参考にしています