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随分と質素な施設ではある。温泉といえば豪華絢爛ホテルに投宿、もしくは大型スーパー銭湯という方式に慣れた人達にとっては、貧相極まりなしと映るだろう。
確かに、ロッカーもない(貴重品ロッカーはある)狭い脱衣所、四、五人も入れば満杯であろう湯船が一つしかない浴室は、貧相と言っても過言ではない。しかし、温泉は泉質と考える私には最上の施設であった。
白濁し、微かに硫黄臭が漂い、湯の華が浮いた湯に一歩でも入ると、良質の湯を実感する。龍神温泉、箕面温泉、上湯温泉、音の花温泉など、所謂ツルヌル系のお湯と比較しても、圧倒的にここの湯が一番である。濃度が高いといった実感だ。この肌触りは癖になる。湯温も四十度前後で熱過ぎでもなくぬる過ぎでもなく結構なものである。源泉がそのまま満たされている湯船には、側面に注入口が数箇所あり、そこから湯が注がれている。底に排水口があるが、循環湯ではなく、源泉そのもの。循環方式のくせしてかけ流しに見せかけるあざとい施設が関西には多いのだが、そんなあざとさはここにはない。
湯船から外を見ると、山と渓流を眺めることができる。残念なのは、窓がはめ殺しになっているところ。窓が開けれれれば山の香りを嗅ぎながら入浴できて更に快適なのだが。
ここ山乃湯が、犬鳴山温泉の湯元であり、不動口館などの旅館は、ここでタンクに保存した湯を引いているため、所詮は希釈された湯、ここの濃度とは比較にならない。犬鳴山温泉の湯を堪能したいなら、山乃湯しかない。
良質な湯を提供してくれる山乃湯は、規模を大きくして泉質を駄目にしている昨今の大半の温泉施設とは正反対の姿勢を見せており、その姿勢には深い敬意を抱かざるを得ない。このままで充分である。家の近くにこんな温泉があったら毎日でも入るんだがなあとつくづく思う。2人が参考にしています