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実は、こちらの訪湯はこれで三度目になります。
いままでに二度訪ねてはいるんですが、恥ずかしながら僕、前回の二回ではこちらの温泉の価値がわかりませんでした。巡り合わせ、というのもあるのだと思います。一度目はワイワイ仲間同士で訪れたときで、そもそも温泉にあんまり興味がなかった時代のことでした---レトロな風情に感心はしたけれど、浴場のすぐ脇が着替所になっている風呂の構造にびっくりしたくらいで・・・いま思うと自らの未熟さが歯がゆすぎて、残念すみませんという感じです<(_ _;)>
二度目は、温泉に興味を持ち出した、去年あたりに訪れたのですが、これはもう駐車場に見事に観光バスの横付けされた、完璧なイモ洗い・・・風呂の空きスペースを狙って「えい」って飛び込むのは、なんか入浴というよりはストレスチックな通勤ラッシュって印象でして・・・
やっぱり巡り合わせってやつでせうか、そんなこんなで僕、法師温泉の真価はわからなかったのでありますヨ。
そんな印象が変わったのは、つい先日、9・21の四万行きの帰りに立ち寄ったときです。思えばこれも巡り合わせ、立ち寄りした猿が郷のお目当ての温泉がたまたま二軒ともやってなくて、その埋め合わせで「はあ、仕方ないから法師温泉でも寄るか」というどちらかといえばネガティブなノリでの訪問だったのですよ。
でも、これが逆ラッキーでした。懐かしの法師温泉に訪れてみると・・・なんと、連休明けのせいか、湯浴みの客、僕を含めて五人いかいません! 信じられない悠々さです。
しかも、その親父たち、み~んな「俺は温泉のことが分かってるんだ」と顔に書いてあるような、いかにも温泉通のツワモノって感じなんです。ひとりはおんなじ姿勢で修行僧のように1時間くらいずーっと浸かってる。ひとりの兄ちゃんは、僕が浴場にいるあいだじゅう、浴槽に座って膝から下だけぷらぷらとお湯に入れて静かに動かしています。
レトロな歴史風情たっぷりの風呂場で、こーゆー「温泉は分かってるんだ」親父連に囲まれて、(でも、このひとら、マナーは超いいの)窓からは秋の初頭の薄曇りの陽の光・・・足元の砂利から直接湧出してくる超新鮮な湯に肩までじんわり浸かっていたら、ああ、370年ほどタイムスリップ、気分はもう中世の旅の僧ですねえ・・・。
すっかり思い直しました。法師開眼です。ここは、お湯もサイコー---なんというここ柔らかいお湯でせう。新鮮極まりなし。両手ですくって顔にかけてみると、湯の底のほうにかすかに焦げくさいような不思議な香気があります。これ、なんの香りなんだろう? あんまりいい湯の時は僕、鼻腔からも湯を吸うんですが、うーむ、いいですな、法師の湯は鼻腔にも柔らかい。
ふと耳をすませば、ぽこぽこぽこと砂利の底からお湯の湧き出るかすかな音がしてきます。ああ、なんて静かな時間でせうか。
山祈る太古の民の寂心今日新たにす法師の湯にして
帰りの展示場に川端さんのこんな歌が飾ってありました。
法師温泉「長寿館」、最上級のお勧めです。あ。ただしこれは限定句付き! 芋洗いでないときに限ります。1人が参考にしています