今回伺った温泉施設は「吟湯 湯治聚落」で、「ぎんとう　とうじしゅうらく」と読みます。もうこの名前からしてこだわりのにおいがプンプンしているのがおわかりでしょうか。そしてそれ以上にこだわりを感じるこの書体、私はウェブサイトを訪れたとき、まずはアクセス方法や営業時間を確認するべきところを、店名のデザインに目がとまりました。

な、なんだこのイケてるカリグラフィーは！！
懐かしさと斬新さが同居し、エッジがきいているのに温かみを感じるこのデザインは一体…ワナワナ。

日帰り温泉施設なんてものは、「◯◯の湯」といった単純な店名、かつ相撲みたいな書体で書かれているのが定番なはず。だが湯治聚落さんは、店名はもちろん、館内の各施設の書体やロゴマークもイカしたカリグラフィーが満載。もう、デザインしたの誰よ!?と叫びそうになるのを抑えるのに必死です。なにかここにはきっと深いコンセプトがあるに違いない。

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  銭湯の名とビジュアルで、こんなに琴線に触れたことはありません

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  門にも気になる看板の文字が…

そういうわけで取材当日、代表の方にまず意匠についてお話しを伺ったところ、なんと綿貫宏介氏が手がけたものだそうです。タハー、なるほど、さすが綿貫先生！

とひととおり唸ってみました。が、すみません、不勉強で存じ上げておりませんでした。美大出身のはしくれのくせに綿貫先生も知らないとはけしからんので、氏について調べますと、

「1956年、ポルトガル・リスボン大学に外交史研究のため留学。欧州、アフリカ、南米を暦遊したのち南欧画壇に伍し、リスボン国立近代美術館、欧州・アフリカ各美術館に収蔵されている作品が39点、また書画集等の著作が18作」

という、偉大な美術作家だということがわかりました。

綿貫デザインに惚れ、「このデザインを活かす温泉施設をやりたい」というのが湯治聚落さんのそもそもの始まりなんだそうです。

あります!? そんな志の高い日帰り温泉、あります!?
アートがコンセプトの中心にある温泉なんて、豊かなことこの上ないですよね。

館内には綿貫氏が手がけたツボや絵画、タペストリーといった装飾品はもちろん、傘立てや机にいたる調度品が要所に置いてあります。館内を一周して「ぬ！これは!?」と思って代表の方に伺うと、綿貫氏のデザインであることが多く、温泉で体を癒すだけでなく、見て楽しめる要素がこんなにもある日帰り温泉は初めてです。

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  あらゆる場所に綿貫先生の作品があります

壺や絵に見とれながら廊下を進んでいくと、中庭が見えてきます。四季折々の植物が繁り、風呂に入る前から心がほぐれます。夏はこの中庭で、冬は入り口付近の暖炉のそばで、バンドの生演奏が行われる日があるそうで、明らかに普通の日帰り温泉のホスピタリティーを軽く超えています。

脱衣所や洗い場を見ると清潔に保たれており、六甲山系の水脈から湧き出るアルカリ性単純温泉は、入ってみると非常にまろやかで、肌を優しく包み込んでくれるような柔らかな感触です。思わず「いい湯だな ～ビバノン・ロック～」を歌ってしまうところです。店名に「吟湯」とあるように、まさに「気持ち良くて吟じてしまうお湯」なのです。そして泉質もさることながら、湯加減がとにかく絶妙でした。温度管理に細心の注意を払っているのがわかります。内湯も外湯も熱からずぬるからず、心地よい温度なのです。

同じタイミングで入浴していた、夜勤明けだという女性達が「ついつい長居してしまうタイプのお湯だね」と評しているのを聞き逃しませんでした。私を含め、ここに入浴した皆さんのビバノン度（入浴による快指数の意）が急上昇しているようです。

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  絹湯でじっくり体も心もほぐれます

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  静かで緑豊かな露天風呂

露天の檜風呂で高濃度炭酸泉をのんびりと楽しんだ後、壺湯に向かったところで「あっ」と声を漏らしてしまいました。

壺にも綿貫デザインが施されているのです!

そしてその後、備え付けのシャンプーボトルを手に取った時、岩盤浴ウェアに着替える時にも驚きました。ボトルにも！岩盤浴用のバッグにも！綿貫デザインが施されている！風呂場にも徹底した綿貫ワールドが展開されていて、実に清々しい限りです。

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  壺湯にも綿貫デザイン！

一通りお湯につかった後は、お待ちかねのサウナにまいります。湯治聚落さんのサウナは、清潔な木のベンチはサラッサラで、なにより嬉しいのが大きなガラス窓があることです。普通のサウナには窓などなく、閉所恐怖症の私は、高温で苦しいのか閉塞感で苦しいのかわからない時があるのですが、こちらのサウナの開放感たるや目をみはるものがあります。大きな窓から木々が見えるのもサウナでのリフレッシュ感を演出するポイントとなります。

ここでしばらくサウナと水風呂の往復に勤しんだのは言うまでもありません。水風呂の水もマイルドだったのが拍車をかけました。「六甲のおいしい水」に浸かるのを想像してみてください。お湯にせよ水にせよ、肌ざわりがとにかく気持ち良かったです。

温泉とサウナだけで終わらないのがここ湯治聚落です。「聚落」という名は、いろんなお湯や設備があつまった「集落」のようだから、という由来があるそうです。ではお次は岩盤浴です！

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  緑を眺めればサウナの息苦しさもやわらぎます

「神思汗盤（こうずはんばん）」という、これまたこだわりの名を持った岩盤浴エリアに来ました。

３種類ある中の１つが女性専用で、希少な天然鉱石のブラックゲルマ、トルマリンでできています。ブラックゲルマは遠赤外線放射能力が非常に高いそうで、室温はそれほど暑く感じないのに、しばらく横たわっていると汗がジワジワと吹き出してきます。女性専用の休憩室ではバランスボールやヨガマットが設置されているので、休憩を入れながらストレッチを行うのも効果的です。

また、漫画約6,000冊と無料マッサージ機の用意があるほか、岩盤浴室内では女性限定のホットヨガ教室（要予約）もあります。 岩盤浴室で行うヨガで、寒い季節を健やかに乗り切りたいものですね。

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  岩盤浴入口にも、またまたイケてるカリグラフィーが！

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  ここでヨガなんてしたらさぞや気持ちよかろう

レストラン「飯家吟陶（はんかぎんとう）」は、杉や檜でできたシックな内装に、綿貫氏のウィットに富んだオブジェが散りばめられています。

落ち着いた雰囲気の中、親しみのある和の定食や、アラカルト・めん類など、クオリティの高い食事ができます。社員の方だけが食べられるまかないもとても美味しく、仕事の楽しみの一つだと聞き、まかないがうまいのは本物だよな、うむうむ、と一人頷いてしまいました。

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  湯上りにくつろぎの空間での美味しいお食事はたまりません

帰りにはお土産品を物色するのはもちろんですが、アンティークの素敵なチェストに綿貫氏の作品が飾られているので、ぜひこちらもご覧いただくのをおすすめします。

絵画が飾られている温泉施設は多々ありますが、湯治聚落さんはまるで、アートギャラリーに温泉が湧いたかのようです。お湯で体の疲れを癒すだけでなく、芸術に触れて心も豊かになれる、粋で瀟洒な温泉でした。次回訪れた時はじっくり綿貫作品を鑑賞して、温泉と料理を楽しみたいものです。

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  綿貫作品を生活の中に取り入れてみてはいかがでしょう