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こちら河鹿の湯は、もともとは西平の湯と呼ばれ、古くから地元民に愛されてきた共同湯。狩野川沿いに建ち、『伊豆の踊り子』の舞台となった老舗旅館湯本館に隣接してます。奥には駐車場(5台くらい・無料)も完備。
私の敬愛する井上靖さんの自伝的小説『しろばんば』にも西平の湯として何度も登場します。もっとも時代設定は大正一桁で、現在のような建物ではなく、簡単な屋根の付いた脱衣所と露天の湯船が1つあるだけの簡単な設備だったようです。浴槽に仕切りはあったものの、男女の区別はなく、そんなことに頓着する村民もいなかったと、のんびりとした様子が作品のなかで描かれています。子供たちはしばしばこの共同湯を遊び場にして、古老に叱られるシーンも出てきます、まあ、古くから地元密着型の共同湯であり、子供たちにとっても最初の社交場だったようです。
そんな由緒正しいバリバリの共同湯河鹿の湯ですが、100年近くの時を経て、現在は平屋建ての男女内湯各1を誇る浴場施設へと大変貌を遂げています。建物自体は昭和ロマンの雰囲気が色濃く残り、古さは否めませんが、内部は古いなりに大事に使い込まれ、浴室も清掃が行き届いていて気持ちよく利用できます。
入浴するには暖簾をくぐって正面の券売機で入浴券を購入し受け付けのおばちゃんに渡す仕組みです。この日は平日の午後3時過ぎに突撃しましたが、湯浴み客も少なめ、一時は貸しきり状態でした。「西平温泉」と印刷されたタオルを貰い、浴室へゴー。
浴室は懐かしい温もりあるタイル張りで、床、腰壁、湯船と種類や色を使い分け、小判型の湯船のデザインと相まって意外と斬新だったりします。湯船は3人サイズで、こぢんまりとしているものの、新鮮なお湯が可愛い蛙の湯口からドボドボと流し込まれ、掛け流し量もすこぶる多いです。湯は無色透明、源泉を飲んでみると極僅かに石膏臭を感じる程度。その他特に味は感じられなかった。湯温は源泉が体感で43度強、湯船が41~42度の適温。お湯はサラサラとしているが、肌には弱キシ感があり、欲感も良好でです。窓からは狩野川の風景も臨め、下手な露天風呂では太刀打ちできないロケーションです。窓から入ってくる川風も気持ちよく、火照った体をクールダウンするのにもってこいでした。浴後は肌がサラスベになっていて、温泉効果も実感できました。
女湯ではご一緒になったおばあちゃんのシップや軟膏のきついハッカ臭が浴室に充満し、落ちついて入っていられなかったようだ。そのおばあちゃんが何度も「悪いね悪いね」と気にされていて、かえって恐縮したとのこと。こういう出来事も共同湯ならではで、貰い湯の気持ちで地元の方に感謝しつつ交流するのも醍醐味と言うもの。地元の方に愛されつつ、大事にされつつ、いつまでも守り続けてもらいたい共同湯である。11人が参考にしています