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湯ノ花温泉は時間が止まったような長閑な温泉地。そこで江戸時代から残る曲家を宿としている本家亀屋に泊まった。部屋は3つあるようだが、初めての宿泊客がいる場合は宿泊は2組に限定しているようだ。床や梁などは磨き上げられ黒光りしている。
風呂は母屋にはなく、湯ノ岐川を上流に向け5分程度歩いたところにある。私は紅葉シーズン前で天気も悪くないときだったので苦にならなかったが、雨や冬時は行くのがかなり億劫になるかもしれない。近くで入ろうと思えば、弘法の湯や天神の湯に入れる。
離れた場所にある風呂は実に温泉好きの心をくすぐる佇まいを見せている。一見ただの物置小屋にしか見えない。まるで隠し湯のようだ。
宿で借りた鍵で扉を開けるとコンクリートで固められた小ぶりの浴槽が見えた。お湯は周囲の共同湯同様無色透明だが、もあっと湯気が充満するなか、石膏臭のような臭いが感じられた。タマゴ臭がするとの情報があったが、私には明確には感じられなかった。やや深めの浴槽の底からは湯が湧出しており、何箇所か一定間隔で気泡が上がってくる(写真)。お湯は温くなく熱すぎることもない適温だったが、夏場はかなり熱く感じられるらしい。浴室は狭く暗いが、それが逆に気分を落ち着かせてくれる。
宿の食事はとても健康的。川魚や自家栽培の野菜がふんだんに振舞われる。好き嫌いの多い私だが、幾つかの野菜は頑張って食べてみた。最後に出てくる自家製のそばは実に旨かった。おかげで翌日はすこぶる体調が良いように感じた。
あまり商売っ気のなさそうな宿のご主人や若女将はとても感じがよく、客との間に適度な距離感を保っている。万人受けする宿とは思わないが、気に入る人にはとても印象深い宿になるのではないだろうか。5人が参考にしています