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十津川温泉郷最深部、上湯温泉にある公衆浴場。川にせり出した感がある小さな駐車場に車を停め、階段を下りることになるが、この階段が結構急勾配かつ長い。高齢者には少々辛かろう。情けないことに私も帰路の登りで息を切らした。
木造の建物の前に小さな小屋が付属して建てられており、そこに受付兼湯守りの方が一人おられる。私の利用時は年配の男性で、ここで一人500円の入浴料を支払い入浴することになる。
外観も内部の脱衣場も浴室も小振りで、かつ凝った造作など何一つない。悪く言えば安普請、良く言えば簡素、山奥の川べりに豪華絢爛の入浴施設など狂気の沙汰だから、これはこれで風景に溶け込む優れた普請なのだろう。こんな場所の温泉施設は、自然の中に溶け入り、存在を消すくらいこじんまりとしているのが丁度良い。
簡素極まりない脱衣場で衣服を脱ぎ捨て浴室にお邪魔すると、これまた小さなもの。コンクリートの打ちっ放しで、淵に自然石が埋め込まれた簡素極まりない浴槽が一つあるのみである。石も河原の石を利用しているのであろう。凝った造作は微塵もなく、情緒を求めても無駄である。大型の窓から山辺と川を眺めながらの入浴となる。私が贔屓にしている神湯荘管理の露天風呂は至近距離にある。
湯は川向こう数十メートル離れたところで湧出している泉源からパイプで引かれた74度の高温泉で、さすがに熱めだが、硫黄臭が香るナトリウムー炭酸水素塩泉のつるぬるの浴感は優れもの。消毒臭は一切無い、天然温泉の芳香のみ鼻をつくのは十津川温泉郷の面目躍如である。一箇所の石の隙間から源泉が注入されており、隙間を覗くとそこで真水と源泉がブレンドされている。私の訪問時は、多少の加水なくば熱過ぎる湯温であったので、加水はやむを得ない。冬場なら加水なしで済ませられる場合もあるのだろう。オーバーフローした湯はそのまま川に流れ出るシステムだ。当然のことながら循環装置などあるはずもなく、完全にかけ流しである。
一応シャンプー等は一つだけカランとともに置かれている。上物なんぞ期待してはいけない。私の訪問時はメリットシャンプーが一つあるのみであった。
500円の入浴料を高いと見るか、安いと見るか、各々の考え方一つだろう。温泉は泉質が最大の重要な要素だと考える人にはこの施設は好ましく、都会の小奇麗なスーパー銭湯が温泉のスタンダードである人にとっては、狭く、小汚く、サウナも無く、水風呂も無く、露天風呂も無く、無い無いずくし。私にとってはこの素朴極まりない天然温泉は満足ゆくものであった。1人が参考にしています