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「冬の日本海が“ひとしけ”するごとに、身が締まって美味くなるんだよ、越前のカニはね」。ぬめりのある透き通ったお湯で撫でながら、日焼けした海の男が、親しげに語りかける…。海しか見えない、海しか見る必要のないこの温泉との出会いは、湯気に包まれながらの会話で、より印象深いものとなりました。それがいまからちょうど10年ほど前の事。
osamuさんの書込みと同じく、人生の節目節目でなぜか、畳にすると8畳一間ほどのこの空間に、脚を運んでいたのです。特に冬場にみせる
“湯の顔”が好きでした…。と過去形で記すには訳があるのです。
今時分の“湯の顔”を覗きに、関西から先週越前の地に赴いたのです。追い越しても追い越しても、姿を表す鉛色の厚い雲。その日も最高の泉質で長旅の疲れを癒してくれました。ですが、この「漁火」が、今月一杯で営業を終了するとの事。場所を移して4月より再開するそうですが、日本列島の端っこに、いえば無造作に形作られた「自然の恵み」が、その場所から動いてしまうことが残念でなりません。この「漁火」に関して言えば、良き温泉に必要なものを、“上品にさりげなく”備えているような気がします。逆にいえば「余分なものは何一つない」という感じでしょうか。夕方に聞こえる村内放送…、甲高い波しぶきの輪唱…、そして地平線のありかを教えてくれる、横一列の“船灯り”。全てが“泉質”に含まれていましたから。今月中に時間を作って、もう一度車を走らせます。最後の、最高の“湯の顔”を見せてくれている、冬の漁火へ…。31人が参考にしています