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世に秘湯や珍湯は多々あれど、怪湯ともなるとそうあるものではない。山奥に人知れず佇む秘湯や、すこぶる珍奇な入浴形態を余儀なくされるような珍湯の類も大好きなのだが、評判の怪湯振りを耳にして片道数千円の高速料金もなんのその、入浴料200円の怪湯を目指した次第。つくづく困った性分だと思う。
住宅街の中にこのような温泉が湧いているとは、にわかには信じられないようなのだが、一見宗教施設とおぼしき「成田山霊観不動教会」の幟と庵の類の中に祭壇や白装束の女人のマネキン人形が置いてあるという、すこぶるシュールな佇まい。普通、庵の中にマネキンはないだろうと思うのだが・・・夜はかなり気味が悪そうだ。
入浴料金は200円であるが、非会員の価格が200円であり、信者(会員)になって500円を支払えば月々100円で利用できる。私がいくら物好きでも、関西から愛知県愛西市まで頻繁に通えるはずもなく、200円を支払い入浴した。隣の吉野家という雑貨屋のご主人がオーナーで、この方に料金を支払ったのだが、上に超がつく話好きの方であるので注意。
怪しい宗教施設の類の温泉であるというだけではない。ここは建物も相当怪しいのである。怪しいというより、はっきり申し上げてしまうが、ボロなのである。屋根は傾いているし、浴室部分はトタン製、脱衣場に鍵付きロッカーなどあるはずもなく、浴室にカランさえない。施設というより朽ち果てる寸前の小屋だ。
コンクリートの簡素な浴槽が三つあり、湯口に近いところが上段になり、下に浴槽ほど湯温が低い。入浴できるのは四人が限界だろう。ここまで怪湯ともなると貸し切り状態かと期待したのだが、何の何の、常連と思しき人が二人ほど入浴されていた。
泉質はナトリウムー塩化物ー炭酸水素塩泉で、当然源泉かけ流し、湯量は多く浴槽の湯は新鮮である。特段塩味は感じられなかった。個性の強い湯ではないが、肌触り良好、こんな住宅街で源泉かけ流しの恩恵に服するとは、感激である。たとえボロ屋の中でも、新鮮な湯に入れれば私は満足である。
泉質を除いて、まことに個性的な温泉。関西の方で、山空海温泉や鍬渓温泉の雰囲気が好きな方であれば、あるいは気に入るかもしれない。小奇麗な温泉施設しか知らない人は近付かない方が無難。オーナーによると、来年にはリニュアルが予定されているらしく、この怪しげな雰囲気が気になる人は、急いだ方が良い。13人が参考にしています