初めまして。いつもご愛顧頂きまして誠にありがとうございます。
こんな風に人前で話す事はあまり無いのですが、本日は皆さんにお願いがあります。
どうか、温浴業界を助けてください。
銭湯、スーパー銭湯、サウナ施設や健康ランド、いわゆる温浴施設は今、大変苦しい状態にあります。私は「このままだと日本の温浴文化が途絶えてしまうのではないか」という、強烈な危機感を持っています。

2020年に1度目の緊急事態宣言が出た際、銭湯を除く日本中の温浴施設が営業を自粛し、それによって大きな打撃を受けました。我々は45日間の営業自粛をしたのですが、その時に出た赤字額が2億円です。銭湯も生活インフラを支えるために営業していたとは言え、外出自粛の呼びかけもあった事から大きく客足を減らしています。当然多くの赤字店舗が出たでしょう。
休業支援金・給付金、協力金などいったいわゆる公的支援もありましたが、はっきり言ってまったく十分なものではありませんでした。この危機的状況をどう乗り切るかと言うと、融資、つまりは借金をすることで乗り切った事業者が多かったのではないかと思います。業界関係者は口を揃えて言いますし、弊社もそのひとつです。
コロナ中は緊急事態宣言やいわゆる「まん防」に翻弄され、お客様の数も急激に減りました。オペレーションや勤務シフトの見直しなどコストカットに明け暮れ、そして借金を背負いながら、ひたすら暴風雨の中をじっと耐え続けた、というのが温浴業界におけるコロナ禍の実情です。
そして社会が落ち着きを取り戻し、徐々にお客様も戻ってこられ、「これで少しずつでも、借金を返せるかな」と思っていた矢先に来たのが光熱費の異常な高騰です。
1か月あたり約70万円だったガス代が172万円になった、という銭湯の嘆きがSNSでも話題になっていました。
つらい:cry:
— 押上温泉 大黒湯/東京墨田区銭湯♨️ (@daikoku_yu) February 3, 2023
営業努力ではどうしようもできない勢い。 pic.twitter.com/fiyPCnCVoz
銭湯は家族経営のところが多く、毎月の収益は「なんとか家族が食べていける」ぐらいの所がほとんどではないでしょうか。決して大きく儲かるような商売ではありません。
元々それほど利益が多くない業態のところに、毎月100万円以上の支払いが上乗せされるわけですから、やっていけるわけがないのです。東京の銭湯では480円の入浴料が今では500円と20円の値上げをしましたが、1人あたり20円の値上げで月100万円のコストアップを吸収できるわけもありません。コロナ中に借り入れたお金の返済もはじまります。
大型施設も同様です。この、光熱費の高騰を受けての決断ではないかと思っているのですが、弊社草加健康センターの近隣にある温浴施設「湯屋処 まつばら」様「Spa Nusa Dua」様「よしかわ天然温泉ゆあみ」様の3店舗が廃業もしくは休館を決定しました。たった4ヶ月の間です。我々のすぐそばだけで大型施設が3店舗です。日本中ではもっと多くの温浴施設の休業・廃業が進んでいますし、これからも増えるでしょう。今後、更なる値上げも噂されています。
まだ廃業を決めていないとはいえ、「このまま続けるべきか、どうか」を悩んでいる、温浴業界の経営者の方もかなりいらっしゃるのではないかと思います。つまり、今営業している施設も「まだ潰れていないだけ」というのが率直な実態ではないでしょうか。
もちろん、「しんどいのはお前らだけじゃない」「時代の流れで淘汰されるのは仕方ない」というご意見もあるかと思います。
では温浴施設が潰れるとどうなるのか。我々もコロナ禍を受けて、40年間一日も休まず地域の方々にご愛顧頂いた相模健康センターを、苦渋の決断ながら閉店しました。我々の店舗に来て頂いた事のある方はご存知かと思いますが、我々の店舗はお風呂だけではなく、食事処、宴会場、漫画コーナー、カラオケなど朝から晩まで過ごせるような施設になっており、ほとんど毎日のようにいらっしゃる常連の方々がいます。

特に高齢者の方ですが、朝からお越し頂き、食事処で顔なじみの方々とお食事をし、おしゃべりをし、ビンゴゲームをし、そしてお風呂に入って、という一連の流れが日課になっている方々も多くいらっしゃいます。施設が利用者にとって一種のコミュニティでありコミュニケーションの場になっているのです。

閉店した相模健康センターにはおばあちゃんと娘さんの親子でよくいらっしゃっていたご高齢の方がいたのですが、相模の店舗が閉店になり、しばらくしてから、東名厚木健康センターに娘さんがひとりでいらっしゃったので、「お母さんはお元気にされてますか?」とお伺いしたところ「あまり外出をしなくなったせいで、寝たきりになってしまった」と。把握しているだけでお亡くなりになられた方も複数名いらっしゃいます。

コロナ禍で来る事を自粛された方々にも大きな影響がありました。草加健康センターには本当に毎日のように来て頂いていた名物おばあちゃんがいたのですが、コロナ禍の折、自治体の要請や社会の空気もあり、来店をお控えになられまして、少し落ち着いた頃、久々にお見えになられたと思いきや、あれだけお元気だった方が随分とお痩せになられ、付き添いの方に手を引かれながらではないと歩けなくなってしまっていたのです。
こういう話をお客様からたくさん聞きます。私が把握しているだけでもそうなのですから、グループ全体の従業員に聞けばもっと多くのケースがわかるでしょうし、日本の温浴施設全体で言えば何万という方がコロナ禍で行き場を失い、健康に大きな影響が出ているのではないかと思っています。
銭湯もそうです。歩いて通って、常連の方と挨拶をし、世間話をしてお風呂に入る。この習慣が健康に繋がるのです。歩くことも、おしゃべりをすることも、お風呂に入ることも、予防医療の観点からは全て大事な事です。
人の健康とお金の話を絡めて言ってしまう事には抵抗がありますが、認知症その他の疾患を予防することで莫大な医療費が削減できます。ご本人のQOLももちろん向上します。社会にとってこんなに良いことは無いんです。その場を破壊してしまって良いのでしょうか。
我々はサウナブームのおかげで若年層を中心に新しいお客様が増え、そのおかげでまだなんとか持ちこたえていますが、「サウナブームが無かったら間違いなく倒産していた」ということは断言できます。
そうやって、お客様に支えて頂いている身でこういう事を申し上げるのは非常に心苦しいと言いますか、情けない気持ちではあるのですが、温浴業界を支えるために今一層のお力添えを頂けないかと思っております。特に銭湯など小規模な事業者ほど苦しい戦いを強いられています。
「銭湯帰りにコンビニでアイス買って帰るか」と思っている方はぜひ、銭湯のアイスケースの中にあるアイスを食べてください。飲み物も銭湯の中で買って頂けるとありがたいです。そしてもっと足を運んで頂ければ、廃業する施設を少しでも減らせるかもしれません。一方的なお願いで恐縮ですが、日本の温浴文化を守るためにも、この温浴業界の苦境を、どこか頭の片隅に入れておいて頂けないかと思っております。
なにとぞよろしくお願い致します。
※この記事は個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません
写真提供:草加健康センター 井手代表、豊田佳高
取材・文:豊田佳高
編集:ニフティ温泉編集部