2018年より山梨県都留市で運営され、地域を代表する温泉として多くの人が訪れている「山梨泊まれる温泉 より道の湯」。今回はこちらの人気施設の支配人であるWAYSリゾートホテル株式会社 渡辺和哉さんにインタビュー。
「地域への恩返しがしたい」という想いで立ち上げた「より道の湯」が、地域の人々の「自分の居場所」として定着した現在に至るまでの道のりや、大切にしていることのほか、渡辺さんご自身の居場所として、地域の中で日々健やかに過ごすために取り入れている習慣やお気に入りのポイントなどを伺いました。
Profile
渡辺 和哉 わたなべ かずや
山梨泊まれる温泉 より道の湯 支配人
専門学校卒業後、液晶画面のバックライトモジュールなどの製造、販売を行うWAYS株式会社へ入社。山梨や大阪で購買管理職や営業職として勤務。2018年、リゾート部門を扱う新会社の立ち上げに伴い異動。社長、現顧問と3名で「山梨泊まれる温泉 より道の湯」を開業する。
住まいは施設から車で10分程度の場所で、妻、子ども(7歳、5歳)と4人暮らし。
INDEX
はじまりの想いは「地域への恩返し」
WAYSでは、もとから温泉運営に関わっていたわけではないんです。僕自身も、別事業である液晶ディスプレイなどに使われるバックライトの営業をやっていました。
2018年、それまでのビジネス発展でお世話になった地域により貢献したい、恩返しをしたいということを考えて、リゾート部門の別会社を立ち上げることになり、そこに僕も参加したのが「より道の湯」の運営に関わることになったはじまりです。
それまでとは大きくかけ離れた分野に対して不安もありましたが、生まれ育った地元で新しいことに挑戦できるし、何より面白そうだという気持ちの方が勝っていたので迷いもなく飛び込んでいきました。
最初の段階から、地域への恩返しということで「都留市に人を呼ぶ施設にしよう」というところまでは決まっていたのですが、具体的にどんな施設にするかは決まっていませんでした。ビジネスホテル一本でいくという案もありましたが、地域の人々のコミュティが生まれる場を提供したい、地域の人々の働く場にもなりたい、という想いから、温泉をメインとしつつ、宿泊できるホテルも併設した「泊まれる温泉」にするというプランで話がまとまりました。
現在、「より道の湯」にお越しいただくお客様は、多くが地域にお住まいの方達で、毎日来る方もいらっしゃるほどです。週末になると観光で訪れるお客様も多くいらっしゃいますね。
年齢や性別も様々で、おかげさまで、いろんな方に楽しんでもらえている状況だと思います。
運営しているスタッフは、近くにある2つの大学の学生アルバイトも含めて地元の人間ばかり。工業地帯が近い地域でもありますが、サービス業に従事したいという人に向けて、働く場所を提供するということも行えていると思っています。
もちろん、まだ余地もありますし、さらに新しい場を提供していきたいですね。
キーワードは「サードプレイス」
「より道の湯」のコンセプトは、「お子様から年配者まで、年齢に関係なく自分の居場所がみつかる」ということ。自宅でもない、職場でもない「サードプレイス」を提供するということを店舗理念として掲げ、大切にしています。
SNSが普及して、つながりはどんどん生まれていますが、顔と顔を合わせてコミュニケーションをする機会は多くない。そんなときに温泉はもっとも適している場のひとつだと思っています。
以前は年配者がメインとなって温泉を中心にしたコミュニティをつくっていましたが、近年は、サウナブームによって若い方たちが加わり、温浴施設をそれぞれの居場所として楽しむというニーズが高まっているのを感じますね。そういったサードプレイスの中心にあるもの、コミュニケーションをはぐくむもの、という意味でも、温泉文化を残し広げていけるように頑張っていきたいと思っています。
余裕があればさらにサウナを増やしたい気持ちもありますが、あまり欲張らず、まずは安心、安全、清潔といった基本を忘れず、何よりはお客様が気持ちよく過ごせる空間を提供するという心構えを守って運営することを大切にしています。お手本は、研修のときにお世話になった「満天の湯」さんですね。
接客にしろ、清潔感にしろ、とてもレベルが高く、基本を大事にする、の参考にもなっています。
僕自身、温泉は大好きです。仕事終わりには一利用者として入浴し、サウナにもしっかりと入って汗を流す。湯舟につかるだけでも疲れがとれるなと感じますし、何よりとても癒やされるなと毎回感じます。「より道の湯」は、私にとっても居心地のいいサードプレイス。お湯に浸かりながらお客様の話に耳を傾け、より良いサードプレイスにするためのヒントにもしています。
コロナ禍の危機を超えて
オープンから2年目、やっとスタッフも育ってきて「さあ、ここから」というタイミングで始まったのがコロナ禍です。どちらかというと閉ざされたエリアである都留市では市民の反応も慎重。1~2カ月間休館せざるを得ない事態が結果的に3度訪れました。
状況はほかの温浴施設でも同様で、なかには耐えきれずに廃業されてしまった施設もありました。私たちも苦しかったのですが、「このまま終わらせる訳にはいかない」と、会社側と相談してスタッフの給料は全額支給。辞めてしまう人もなく、コロナ禍が落ち着いてお客様が戻ってきてからも変わらないサービスが提供できて、ホッとしています。
また、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行してからは、コロナ禍で一般的になった「黙浴」をそのままお客様にお願いするかどうかで悩みましたが、施設を立ち上げたときの目的である「地域の人のコミュニティとなる場づくり」という点に立脚してお客様にご理解をいただき、黙浴のお願いは終わらせることにしました。
「人」が居心地の良さを創る
運営で何より大事にしているのは「人」です。
設備などのハード面というのはどうしても新旧の差が出やすく、月日が経つほど新しい施設にはかなわなくなりますよね。でも、どんなに新しい施設でも、接客がともなわなければ本当の意味での居心地の良さは提供できない。スタッフに会いたくて来てくれるような、そんな施設にするのが理想だと思っています。
まず、スタッフ採用の面接には必ず立ち会うようにしています。経歴やスキルよりも、「しっかり目を見て話ができるか」「(履歴書が手書きであれば)どんな字を書くか」など、人としてどんな人なのか、しっかりとしているかどうかを見させていただくよういにしています。
接客のレベルを上げるためには、休館日にマナー講習なども実施しています。マニュアルどおりではなく、丁寧すぎず、ラフすぎず、お客様1人1人に合わせて柔軟に対応できるように、また、スタッフ各々の個性を活かせるようにすることも大事だと思っています。
スタッフ個々の個性を活かすだけでなく、裁量も活かせるようにしています。フロントのスタッフを中心に判断や対応ができるので、なにかトラブルが起きた際にも素早くベストな形で対応できるようになっています。お客様からお褒めの言葉をいただくことも多いですね。
地域に根ざし、地域を愛する
最近では、地域との連携として、市内にある「ブレスジム」というパーソナルトレーニングジムとの提携を行い、温泉とトレーニングという、健康のための習慣をあわせて楽しめるような取組を行っています。
実はブレスジムの経営者が同級生ということもあって、僕自身もこのジムに通うようになり、いまでは筋トレにハマっています。少し疲れがたまってきたかな、という時は、ジムで汗を流してからゆっくり温泉につかる。これでまた明日から元気にがんばれるな、という効果を実感しています。
私自身、隣町出身でこの富士山の麓である都留市は地元でもあり、愛着がある地域です。前任地の大阪から戻ってきて、今では近くに自宅もたてました。何よりも山がすぐ近くに見えるのがいいですよね。
「より道の湯」からは見えないのですが、自宅の窓からは雄大な富士山の姿が目の前に見えるんですよ。もうこの光景に慣れてしまっているので、見えないと寂しくて(笑)。この地域に心から根差しているんだな、と感じます。
プライベートでは、ジムでのトレーニングに加え、日焼けマシンで体を焼いたり、ゲームをしたり、アコースティックギターで好きなアーティストの曲を弾いたりといろんなことに挑戦しています。お酒もたしなみますし、最近はスケボーも始めました。あとは子ども(7歳、5歳)と遊ぶことでしょうか。
仕事も、その後の温泉も、あるいは充実した休日も、愛する地域の人々と一緒にしっかり楽しむことで、心と体のバランスがととのうんだと思います。
「より道の湯」は、仕事帰りに、遊びの帰りに、より道してほしいという想いから名付けています。1度より道していただいたら次からは目的地にしていただけるような、あるいはまた会いたくなるような人々のいるサードプレイスを目指して運営しています。
ぜひ一度、より道した先に居場所があること、そしてその心地良さを体感してもらえたらうれしいですね。
※この記事は個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません
提供元:山梨泊まれる温泉 より道の湯
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