ココロとカラダをととのえる“暮らしの主人公Stories”

心地いいコミュニティが自分の暮らしを広げてくれる

パーマカルチャーを実践し、人と自然が共存しながら持続可能な農のある暮らしを目指す取り組みを行っている、一般社団法人「小さな地球」副代表の福岡達也さん。2020年6月に妻の梓さんと当時1歳半の息子さんと横浜市から千葉県鴨川市の古民家に移住し、現在は大学生とともに土でつくるサウナやタイニーハウスのプロジェクトに取り組まれています。

半農半Xという新しい生活を探究している福岡達也さんの取り組みやユニークなストーリーを通じて、福岡さんが「ととのう」暮らしを実現するために大切にしていることを4つの切り口でご紹介していきます。

※パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)、農業(アグリカルチャー)、文化(カルチャー)の3語を組み合わせた造語であり、人と自然が共存し持続可能な暮らしを作るためのデザイン手法のこと。

INDEX

地球ひとつ分で持続可能で安心した暮らしがしたい

千葉県鴨川の里山(ご本人提供)

2019年に起きた台風15号によって千葉県の鴨川市にある集落が被災し、農村も大きなダメージを受けました。そこで復興プロジェクトとして林良樹さん(農家・アーティスト)と塚本由晴さん(建築家)と一緒にはじめたのが「小さな地球」です。

台風が来る少し前に、僕は妻と移住先を探してこの場所を訪れていました。その時の印象は、「取り残された秘境」という感じで、中世のような景色が広がる棚田の集落が目の前にありました。きれいに草刈りされた棚田の上には小さなオフィスがあり、そこに心地よい風が抜ける。人も生き物も隔たりなく受け入れてくれる感覚があり、すぐに僕たちは「あ、ここはなんか違う」と感じたんです。

そのすぐ後に台風があり、空き家が数件出たのをきっかけにして僕たちはこの小さな集落に移り住みました。

「小さな地球」は、ビジネスというよりもそれぞれの暮らしを整えているというイメージの方が近いかもしれません。3人がそれぞれ代表となって必要と思うプロジェクトを進めていったら、いまの形になっていきました。

例えば、塚本さんは大学の先生なので、学生たちを連れてさまざまな建築プロジェクトを実践しています。そのアイディアが、これまでの建築学を根底からくつがえしていくようなものなので、多くの人を驚かせています。

林さんは、アーティスト。この土地に住みながら棚田を「大地の彫刻」と捉えて、自らの表現に変えています。非常にユニークなメンバーでこの小さな地球は成り立っています。

横浜のシェアハウスで知ったコミュニティの大切さ

(ご本人提供)

鴨川に住む前は、横浜・洋光台のシェアハウスに住んでいました。そのシェアハウスは30世帯も入るほど規模が大きく、家族で暮らしている人も多くて子供もたくさんいたんですよね。もともと僕は、内向的であまり長く人と一緒にいられないタイプかと思っていたんですが、コミュニティで成り立っているシェアハウスに入ってみて、その暮らしがすごくしっくりきたんですよね。

今は家族がひとつの家に住むのが当たり前の時代ですが、ひと昔を振り返ればそんなことはなく、村の人たちはひとつの家族というような存在だったはず。コミュニティの中で暮らしてみて、ひとつの家に1家族という狭い世界に住んでいたんだなと思うようになり、次第に「暮らしがコミュニティそのもの」だという認識に変わっていきました。

よくシェアハウスの話をすると、「私は人と暮らすのは無理なんです」という意見を聞きます。はじめての共同生活だと不安になるのはすごくわかります。でもシェアハウスを経験してみて、自分の暮らしだけだと自分が経験したことしか知り得ないし、価値観が広がらないと思ったんです。例えば、海外に行って今までとは全く違う暮らしをすると、衝撃を受けて元の生活に戻れなくなることってありますよね。自分の暮らしの外へ飛び出すことは、新たな世界が見えるし、必要なことだと思っています。

自然と人に寄り添う、渾身のタイニーハウス

鴨川に移住した当初からタイニーハウスと食べられる森を作りたいと思っていたんです。食べられる森というのは、自分たちで野菜を育てて自由に収穫したり、人と交流を深めたりできる森のことです。つまり果樹園とその中に小屋があって、そこに色んな人が通ったり住んだりできたらいいなと思い描いていました。

2023年7月に「東京工業大学」の塚本研究室の学生たちにより「滴滴庵」という名前のタイニーハウスが完成しました。夏みかんと柿の木に挟まれている滴滴庵は、丘の上にあり見晴らしがよく、さらにその上には奥山がたたずむ特別な場所にあります。 

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滴滴庵(ご本人提供)

建物内には四畳半くらいの真四角の部屋があり、茶室にあるような小さな入り口をくぐって中に入ると、鴨川全体を見渡せる造りになっています。夏みかんから出た水のしずくは、川・海となり、それがやがて雨となり森に潤いを与えていく。そんな一滴の水が地球に循環する姿、情緒的な世界観を表したくてこの名前になりました。すべて学生によって考えられ作られた、渾身の作品です。

ととのうだけじゃない、新しいサウナ作りに挑戦

建設中のサウナ(ご本人提供)

現在進行中のサウナプロジェクトも大学の研究の一環として行っています。明治大学の川島研究室と協働していますが、彼らと一緒に材料となる「土」の研究を進めています。古くからの伝統工法で「版築」というものがありますが、これを現代に甦らせつつそれをサウナの壁にしてしまおうというものです。「土」は非常に魅力的なマテリアルで、世界中どこでもあり建築にも使われている事例はたくさんあるのですが、近代になって急に使われなくなった素材でもあります。改めて今注目されているのは、その循環可能性であったり、土が魅せる多様な表情が美しいからでしょう。


こうして学生たちと学び合いながらサウナづくりをしているのですが、その根源にはパーマカルチャーの思想があります。僕が研修に行ったアメリカ・シアトルにあるパーマカルチャーの拠点では、農園の中にサウナがありました。そこでの研修生たちが手作りしたサウナですが、月明かりに照らされながらサウナを楽しんだ体験が忘れられません。シアトルは非常に寒いので、サウナという文化がよくマッチしていました。

さらに、農園のサウナということの可能性も感じました。たくさんの果物たちを貯蔵するためのひとつのやり方は乾物にするということですが、サウナがそのままドライフルーツの製造場所になっていました。また、温室と連動して、サウナの熱が余すことなく活用されていました。

日本でサウナといえば、ととのうといった個人的な楽しみというイメージを持たれがちですが、コミュニケーションの場として活用できたらいいですね。今後は、農作物とサウナをうまくつなげる取り組みもしていきたいです。例えば、サウナに来た人が農作業やこの研修に興味を持ったり、鴨川に研究に来ている大学生たちが日常的に使えるサウナにできたらと思っています。

誰もが安心して住める、小さなビレッジを作りたい

小さな集落で古民家の再生にはじまり、現在はタイニーハウスやサウナ制作などたくさんのプロジェクトをしていますが、これには大きな意義を感じています。観光地でもない普通の集落が復興を遂げて、今では多くの人を惹きつける場所になっています。

社会をいきなり大きく変えていくことは難しいですが、田舎の小さな集落から実験的に変えていくことは可能かもしれません。もちろんそこにもたくさんハードルがありますが、どれも具体的で手触り感があるものが多いです。

これから移住者がこの集落に移り住んで来れるような住宅も作りたいと思っています。僕たちは里山長屋プロジェクトと呼んでいます。子育て世代など若い人たちにも移住のハードルを下げて、安心して暮らせる場所を作っていきたいです。

Profile

福岡 達也 ふくおか  たつや

一般社団法人 小さな地球 副代表

武蔵工業大学(現:東京都市大学)を卒業後、就職した会社でコミュニティに関わる業務を行う。その後、横浜市のシェアハウスで出会った梓さんと結婚し、移住先を探し求め旅に出るようになり、アメリカや長崎、三浦半島などに滞在していた。2020年6月に千葉県鴨川市にある築100年の古民家に移住。一般社団法人「小さな地球」を立ち上げ、パーマカルチャーの実践として大学生と共同で行う土のサウナやタイニーハウスの制作などの暮らしに密着したプロジェクトを行い、自身の枠にとらわれない取り組みに奮闘している。

※この記事は個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません

提供元:一般社団法人小さな地球

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