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投稿日:2011年9月19日
これぞ湯治場 (神代温泉(こうじろおんせん))
湯けむり天使さん [入浴日: 2011年9月16日 / 2時間以内]
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日本海の海の幸に恵まれた富山県氷見市。一般旅行者には通常そんなイメージしかないが、氷見市内には温泉好事家には見逃すことのできない山間の秘湯がある。それが神代温泉。
あまりにも由緒正しい昔の湯治場全とした佇まいや、諸々の事情で宿泊が不可であることから、一般受けしないのはある程度やむを得ないことかもしれない。実際この宿の周辺には自然の他何もなく、文字通り山間の一軒宿、しかも和式汲み取り式便所等に象徴される、近代的アメニティーの一切ない伝統的湯治場だからである。
事実、私が宿泊先の氷見市内の民宿で、この後何処に行くのか尋ねられ、神代温泉に行くと答えた折、宿の方の怪訝な表情で現在の神代温泉の置かれた状況が象徴されていた。宿の方にまったく悪意があるわけではなく、「どうしてまたわざわざ神代温泉に?」といった素朴な疑問があるのだろう。
神代温泉は宿の外装・内装の雰囲気のみならず、浴室も同様に期待を裏切らない。小ぶりな浴室の奥の浴槽に褐色の湯が満たされ静かにオーバーフロー、パイプから源泉がかけ流されている。しかもこの源泉、湯元は宿から100m以上離れてはいるが、そこでガスとともに自噴しているのである。掘削してポンプで吸引しているのではない。自噴した源泉を何等加工することなくそのままかけ流すという状況はすこぶる魅力的で温泉好きにはたまらないが、ここでは自噴しているからこそ宿の経営が成り立つという厳しい事情もある。
源泉は塩化物泉で、かなり塩辛い湯である。時の経過とともに無色透明の湯が褐色に変化するもので、浴槽内は完全な濁り湯となっている。そのため浴槽内の段差がまったく認識できず入浴時には注意を要する。湯は塩辛さが際立つが、土臭さは少なく、カルシウム分が少ないせいか析出物が浴槽の淵を覆い鍾乳洞状態というわけではない。その点が泉質は似ているものの奈良県の山鳩湯などと異なるところ。湯温も40度そこそこで熱過ぎないのも良い。
浴槽内の男女の仕切り壁はあるものの相対的に低く、奥の浴槽部分はカーテンと簾による間仕切りがなされている。本来は半混浴に近いものであったのだろう。
老朽化してはいるものの、十分に癒される浴室で、私は美しいとさえ思う。
伝統的湯治場が好ましいと思う温泉好事家ならば手放しで好感するであろう宿で、話好きで親切な女将さんの人柄と相俟って、私としては心打たれた宿である。心優しい女将さんは私が奈良県から足を延ばしたと告げるや、最近の洪水被害を随分と心配してくれ、また、他に客がいない貸切状態であるので一緒にどうぞと、気を利かせてくれるほど親切なのである。
諸事情から、今後の営業継続が万全であるとは決して云えないこともあり、温泉を純粋に愛する好事家の方々は、今のうちにこの素晴らしき湯治場を堪能しておくことをお勧めしたい。100人が参考にしています
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