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【特別寄稿】野口悦男の「温泉遺産のススメ」

私は温泉が大好きである。
年間200日余り温泉地を訪れる日々を40年間続けてきた。これだけ長い期間温泉地を訪ねられたのも、湯船に身を沈め美しい日本の四季を味わいながら、ただボケーっと眺めている空白の時間が非日常的な空間をつくってくれたからだ。
そして体の芯まで温めてくれる温泉力があればこそ。ともかく理屈はどうであれ、温泉はなごみを与えてくれる魅力がある。

世界に誇る『温泉大国』である日本では、古来より温泉を治療や疲労回復に役立て、さらには熱源利用などの生活に密着した形で利用してきた。温泉の効用について、科学的証明ができない時代においても、 新鮮な温泉によって体と心を癒すことを覚え、そしてそれは長い年月の間に温泉利用の知恵として養われてきたのである。

しかし、所得倍増や、高度成長の名のもとで旅ブーム、温泉ブームが起き、それにともなって受け入れ側である 宿泊施設の近代化や大型化も進んできた。その結果、見せかけだけの快適さを売り物にする温泉施設が乱立してしまった。
その結果として「温泉、温泉」とアピールするわりには、温泉の最大の魅力である「効能」「温泉地の風情」などが軽視されることになってしまった。
私は、そういった「作りものの温泉」に危機感を持った。そして、温泉好きな者が集まり、「21世紀末まで本物の温泉を残したい」 という一心で、4年半の期間をかけて日本全国の温泉施設を調査したのである。

宿泊できる文化財の宿と木造三階建てや瓦葺屋根など日本伝統の建造物を大切に保存活用している宿で構成される「温泉施設の建造物」
古くからそれぞれの土地で日常文化に密着してきた、温泉を利用した入浴法や飲泉方法、料理、道具加工などの「温泉文化・風俗」
   適温にするのが目的で加熱、わずかな加水はしていても基本的に100%源泉風呂で、かけ流しをしている風呂を備えた「源泉かけ流し風呂」

これら3つのいずれかに該当するものを「温泉遺産」と認定した。まだまだ調査中ではあるが、さらに全国にいる温泉好きな同志のお力を借り、「本物の温泉」「温泉が生んだ日本の文化」を後世まで残せるようにしたいと考えている。

安全を重視し旅篭の心意気を持つ源泉宿と、後世に残したい素晴らしい温泉文化を少しでも多くの方に理解していただき、温泉遺産を楽しんでいただければ幸いである。





野口悦男プロフィール

野口悦男氏温泉ジャーナリスト。
現在3081カ所(2004年5月現在)の温泉地の入湯を果たし、温泉ジャーナリストとして雑誌やテレビ、ラジオ、講演等で活躍中。
主な著書は「温泉遺産」 「からだにやさしい療養温泉(東日本編)」 「湯仙人野口悦男の温泉260選(東日本編)」 「野湯&源泉宿の旅」 「とっておきの温泉、危ない温泉」 「温泉達人になる虎の巻」など多数。

製作協力:日本温泉遺産を守る会
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