すこし前の話だ。築100年以上という老舗旅館に泊まったことがある。
「こちらがお部屋です」と、通された和室は、お世辞にもキレイじゃなかった。畳は波打っ
ており、部屋に置かれた座布団に座ると、妙なニオイがした。
「温泉宿というのは、座布団まで硫黄の香りかい……?」
そんな風に思いながら、ボクは勢い深く息を吸い込んでみた。たぶん若かったのだと思う。
それは、硫黄ではなく、オナラのニオイだった。
100年という壮大な時間が脈々と流れ、座布団はいかんなく客人のオナラを吸収した。
ある時は、疲れを癒しにきた炭鉱夫がプッとし、またある時は、駆け落ちの娘がプッとする。
それらすべてを包み込んだ吟醸酒のような深いオナラの香り。
ここから学べることは、硫黄とオナラのニオイは違うということだ。ときどき、「硫黄と
オナラは同じニオイがする」という人もいるが、キッパリと否定したい。なぜなら、硫黄の
ニオイが立ちこめる湯には浸かれるが、オナラのニオイが立ちこめる湯には浸かれないから
だ。
さて、そんな話はどうでもいいわけで、四国八十八箇所の道すがらに、やはり創業100
年を超える旅館がある。こちらはオナラ宿とは違い、高名な宮大工によって建てられ、重要
文化財にも指定されている。温泉宿ではないものの、戦後は将校クラブとして栄え、長きに
わたり、お遍路さんから支持されていた。
いた、というのは、それがもう過去の話だからだ。今、この宿に泊る客はほとんどいない。
重要文化財に指定されている宿に、なぜ客が寄りつかなくなったのかというと、
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